グランジ、オルタナに目覚める10代バンドたちーーニトロデイらが鳴らす本気のサウンド
ちょうどSUNNY CAR WASH、Tomato Ketchup Boysら同世代バンドやDJによるイベント『ThereThere0825』に出かけた。他のバンドも90sギターポップなどに影響を受けている印象だが、やはり突出してニトロデイの透き通るような殺伐としたクールネスと轟音が際立つ。特に誰の目も気にしていないような、ただただ自分の出す音に集中する女性陣二人が、自然なだけに余計に圧倒される。7曲あっという間のステージだったが、ラストに演奏した「八月」で四方に飛び散るようなフィードバックギターと、一瞬一瞬に叫びを音に変えるような演奏の全てが、今ここでしか聴くことのできないものだった。しかし同時にステージアクトとして破綻したところのない冷静さが、むしろ10代の彼らの新しさなのかもしれない。やぎひろみのことばかり触れてなんなのだが、黒髪おかっぱにメガネという地味ですらあるルックスで求道的なまでにギター表現に向かう彼女の存在感は、ソングライターでフロントマンの小室ぺい同様に強力だ。一度、彼女の演奏を生で見て、アウトプットするとは何か? について改めて考えてみてほしい。
若い世代でグランジ、オルタナがバンドサウンドやスタンスの基本にあると感じられるバンドは他にもいる。すでに大きな注目を浴び、今夏、各地の夏フェスにも多数出演しているリーガルリリーも、彼女たちの代表曲である「リッケンバッカー」を聴いた瞬間、趣味やブームでバンドを始めてすぐ辞めた知人への痛烈な批判は、たかはしほのかにとって音楽がいかにかけがえのない表現方法であったかを痛いほど知らせる、リーガルリリーならではのグランジだったと思う。そして他のほとんどのレパートリーも隙間の多い主旋律を際立たせるアレンジと、アウトロに向かうカオティックなまでの轟音にーーもし、それしか取るべき手段がなかったとしても、そこに今や死語に近い”オルタナティブ”のそもそものあり方を見た人も多いんじゃないだろうか。
他にも、やはりナンバーガールの影響を感じさせる突然少年もここにきて、LOSTAGEやAge Factoryなど先輩、同世代の自力でオルタナティブの意味を継続し続けるバンドとの対バンなどを通じて、存在感を拡大しているバンドの一つだ。2014年の『閃光ライオット』でグランプリを獲得して以来、着実な活動を続けているとも言えるが、時に15歳ぐらいに見えるボーカル&ギターの大武茜一郎の初々しさ、毎回イマジネーションに富むギターソロで(ギターソロでこんなに魅了できる若いギタリストを近年知らない)沸かすカニ ユウヤらが放つ、ロックバンドにしかない初期衝動的な青臭さを今この2017年に全開にできるある種のロマンも眩しい。
繰り返しになるが、90年代がリアルタイムだった世代が彼らの音楽に唸るのももちろんいいけれど、できれば同世代のリスナーが、共感や楽しみ以外の感情を揺さぶるバンドの存在に気づいてくれれば幸いだ。
■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Skream!」「PMC」「EMTG music」「ナタリー」などで執筆。音楽以外にも著名人のテーマ切りインタビューの編集や取材も行う。