『RESCUE』ツアー最終公演レポート

米津玄師『RESCUE』ツアー最終日に目撃した、創造性のピークにある表現者の生々しい核心

 米津玄師の作品世界は今、猛烈なスピードで広がりつつある。シングルごとに刷新されていくサウンド、中田ヤスタカやDAOKOなど他アーティストとの活発なコラボレーション、そして身体性にフォーカスしたパフォーマンスの進化ぶり。どれも見逃せない点である。ただし米津の表現は、“過去“からの連鎖をただ断ち切って進むタイプのものではない。3rdアルバム『Bremen』で描いてみせた、犬や猫や鶏を引き連れて歩く主人公のように、米津は過去から現在にいたる無数の作品的記憶やモチーフを携えて進んでいく。ツアー『RESCUE』の最終日にあたる7月15日の東京国際フォーラム公演では、先鋭的な要素と懐かしい要素が交錯する、重層的なパフォーマンスを見ることができた。

 ステージセットはいたってシンプルである。おなじみの中島宏(G)、須藤優(B)、堀正輝(Dr)、そして米津が広々としたステージの中央に集まり、「ナンバーナイン」から演奏をスタートさせた。「フローライト」「メランコリーキッチン」と続く演奏は、ギターロックを軸としつつ、USヒップホップやエレクトロ的な要素を織り交ぜたもの。次第に熱を帯びていく演奏に対し、途中から鮮やかなイメージを加えたのは、ステージ後方と上方に設置されたLEDスクリーンだ。「マジカルミライ 2017」テーマソングであるハチfeat.初音ミク名義の新曲「砂の惑星」では、ステージ上方に初音ミクの映像が登場。さらに「ゆめくいしょうじょ」では、シースルー型のLEDスクリーンがメンバーを取り囲む位置まで降下し、歌詞の世界とリンクした美しいアニメーションを映し出していた。

 現行シーンから名作アーカイブまで自在に参照するアレンジ。ニコ動以降の譜割り感覚を反映したメロディライン。さらにLEDによる光のイメージと、4人が生みだす表現の情報量はどんどん増えていく。カオス的とも呼べる状態であるが、そこにあってもステージには張り詰めた空気が流れていた。会場のムードを統べていたのは米津玄師その人だ。コンテンポラリーダンスのような動きと芯の強い歌声。そのカリスマ的としか言いようのない身体性こそが、情報に満ちた音楽表現をひとつの秩序のもとに編成していくのだ。

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