アルバム 『and...』インタビュー
上白石萌音が明かす、オリジナル曲を歌うことで芽生えた“変化”「ひとつ解き放たれた感覚がある」
昨年カバーミニアルバム『chouchou』でCDデビューした上白石萌音が、7月12日にアルバム『and…』をリリースした。今作には秦 基博が楽曲提供とプロデュースを務めた「告白」や内澤崇仁(androp)が提供した「ストーリーボード」、プライベートでも親交のある藤原さくらが初の楽曲提供を果たした「きみに」など、豪華アーティストによる楽曲を収録。女優としても活躍する彼女に、自身の“声”に対する印象の変化やカバー曲とオリジナル曲での表現の違い、そして今回初めて挑戦した作詞についても話を聞いた。(編集部)
「オリジナル曲ができたことで歌うときに気持ちの変化があった」
ーー昨年10月にミニアルバム『chouchou』でCDデビューしてからここまで、怒涛の流れでしたね。
上白石萌音(以下、上白石):そうですね(笑)。ふわふわしたままここまで来ちゃった感じで、まだ現実味がないです。
ーーちょうど昨年後半というのは映画『君の名は。』の大ヒットがあって、そこに歌手デビューが続き、演技以外にも萌音さんの声に注目が集まるタイミングだったのかなと。それこそ最近は、ナレーションのお仕事も増えていますものね。
上白石:ラジオ番組(ニッポン放送『上白石萌音 good-night letter』)もはじまったりして。それまでは自分の声が好きか嫌いかも考えたことないし、まったく意識してなかったんです。でも『君の名は。』の前に『ちはやふる』で歌を詠む役を演じてから、声のことをいろんな人に言ってもらえるようになったので、そこからちょっとずつ意識し始めました。今では自分の声をすごく大切にしなくちゃいけないなと思ってます。
ーー歌うということに関しては『舞妓はレディ』(2014年9月公開)のときから上手だなと思っていたんですが、受け手側の印象は明らかにCDデビュー前後から変わってきたなと感じていて。
上白石:私自身、ちっちゃい頃から歌は本当に好きで。でも、J-POPというよりはミュージカルみたいにお芝居の中で歌うことが好きだったんですよね。だから俳優のお仕事を始めたときも、歌というのはお芝居の延長線上にあるものという認識だったんです。なので、店頭に自分の顔が載ったCDジャケットが並ぶなんて思ってもみなかったし、歌手になるということも自分の想像の範囲を超えていて、すべてが予想外のことでした。
ーーしかも歌う場というのも増えていて、昨年末は『COUNTDOWN JAPAN 16/17』、先日も大阪城ホールでのイベント4月29日開催の『FM802 SPECIAL LIVE 紀陽銀行 presents REQUESTAGE 15』に出演。この夏も『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』が控えています。俳優業だけをしていたら、ここまで大きなステージで歌う機会はまずないと思うんです。
上白石:確かにそうですね。ライブは演技とはまったく違う緊張感というか、人との関わり方が全然違うんです。同じ舞台でもお芝居のほうは2〜3カ月とか、長いと半年くらいかけてスタッフさんやキャストさんとともに作り上げて、ようやく舞台に乗るんですけど、ライブだと初めて行った場所に当日に立って歌う。スタッフさんもその日初めてお会いした方にいろいろ調整してもらうとか、その期間の集中の仕方が全然違っていて。完全に新しい世界に足を踏み入れた感というか、「お邪魔してます」みたいな感覚があります。
ーーなるほど。
上白石:でもそれって、今までずっとカバーを歌ってきたからだと思っていて。自分用にアレンジしていただいたりだとか、原曲アーティストさんからどれだけ「歌ってもいいよ」と言っていただいても、結局は“歌わせていただいている”という思いが強かったんです。でも今回、オリジナル曲ができたことで、歌うときの気持ちの変化もすごく大きいです。自分でいかように色着けしてもいいし、どんなふうに歌ってもいいというのは、ひとつ解き放たれたみたいな感覚があるんです。
「8曲全部、それぞれ役作りしてるような感覚で歌いました」
ーー演技の世界だと、カバーというのはもともとあった作品をリメイクすることに近いのかなという気がしますが、音楽のそれとはまたちょっと感覚が異なりますよね。
上白石:そうですね。作品のリメイクだとセリフやキャラクター性にリスペクトの気持ちを込めて、オマージュ的な意味でオリジナルを引き継ぐことが多いと思うんです。でも音楽は、男性が歌っている曲を女性が歌ったり、歌う人の年齢によって聴こえ方も全然変わりますよね。私は「366日」みたいな恋愛をしたことがないけれど、『chouchou』のときは等身大で歌ってみましたし、「なんでもないや (movie ver.)」も原曲は(野田)洋次郎さんの声ですけど、私の声に変わることで印象が変わる。リスペクトの気持ちを残しつつ、どれだけ原曲のイメージにとらわれずに歌えるかみたいなところが問われている気がします。そこが大きな違いなのかな。
ーーそれともうひとつ、音楽の場合はひとつの曲をずっと歌い継いでいく。例えばあるシンガーが10代の頃に書いた曲を、30代になっても40代になっても歌い続けていき、年齢を重ねることで表現が変化していくことが面白いところなのかなと思うんです。
上白石:お芝居の場合、特に映像では一度言ったセリフは二度と言うことはないですしね。私は前作『chouchou』で歌った「On My Own」という曲を小学生の頃から好きで歌っていて、高校生のタイミングでそれをレコーディングしてCDになりました。これからもずっと歌っていく曲だし、自分の年齢がどんどん上がっていって、いろんな経験をしていくことで、歌に込められる要素も増えていくのかなって。そこは自分でもすごくワクワクしています。
ーー萌音さんの場合は、音楽だけじゃなくて演技の仕事でいろいろ得るものもあるでしょうし。
上白石:そうありたいですね。今回のアルバム『and...』でも過去に演じた役から感情を借りたものもあって、そういう経験が全部融合されているというか……。逆に歌っていたときの感情を、お芝居をしてるときに「あ、これだ」と認識することもあります。そこはやっぱり同じエンターテインメントなんだなと、すごく感じますね。特に今回はいろんな方に楽曲提供していただいて、カラーの違う曲ばかりなので、それぞれの曲の主人公を自分で決めちゃおうと思って。8曲全部被らないようにしようと、それぞれ役作りしてるような感覚で歌いました。
「ひとつ新しい扉を開けられたアルバムになったかな」
ーー初のオリジナルアルバム『and...』には、豪華な作家陣による書き下ろし曲が揃いましたね。
上白石:身震いしてしまうような方々ばかりで。映画の主題歌や劇中音楽を担当してくださった方や、音楽番組で何度もご一緒した方、そういうご縁が集結した一枚になっています。それだけでもう胸がいっぱいです。
ーー前作は全曲映画音楽のカバーで、聴かせ方という点においても統一感が存在しましたが、今回は本当に曲調が……。
上白石:統一感はないですよね(笑)。
ーーでも、それを萌音さんが歌うことで、ちゃんと一本芯が通ってると思いました。
上白石:嬉しいです。『chouchou』のときはバラード一色だったんですけど、実はアップテンポの曲も大好きだし洋楽も好きだし。皆さんにとっては新しい私の歌い方と思うかもしれないですけど、実はこっちが素だったりするんですよね。特に今回はコンセプト自体が“いろいろ”というイメージです。
ーーまさにアルバムタイトルの『and...』に通ずる、いろんなものが付け加えられていくような感覚もありますよね。
上白石:それに加えて、大好きな方々と一緒に作らせていただいたという意味もあるし、ひとつ新しい扉を開けられたアルバムになったかなと思います。
ーーそれぞれの提供楽曲を聴いたとき、最初はどう感じましたか?
上白石:例えば秦 基博さんの「告白」だったり、andropの内澤(崇仁)さんの「ストーリーボード」、HYの名嘉(俊)さんの「カセットテープ」も、ご本人が歌ってくださったデモをいただいたんですが、本当に素晴らしすぎて正直「このままでいいじゃないですか!」と思ってしまいました(笑)。デモで歌ってくださった声からいろんなことを感じ取って、そこに自分でどんどんプラスアルファして歌おうと考えました。