新妻聖子×さかいゆうが語る、“ポップス”への挑戦とキャリアの重ね方「メラメラ闘志を燃やしてる」

新妻聖子×さかいゆうのポップスへの挑戦


「ポップスは1対1」(さかいゆう)

ーーでは、さかいさんがプロデュースした「アライブ」についても訊かせてください。作詞・作曲もさかいさんが手がけていますが、どんな曲をイメージしていたんですか?

さかい:いい意味で“スルメ曲”になったらいいなと思っていましたね。新妻さんはミュージカル歌手としてはオーケストラと一緒にスケールの大きい曲を歌うことも多いだろうし、そういうシングルも必要だと思うんだけど、僕が作るのはそういうものではないなって。ライブ会場の大きさでいうと、東京ドームではなくて、ひとりひとりの顔がギリギリ見えるホールくらいというか。

新妻:デモはさかいさんが歌ってくれてたんですけど、フランキー・ヴァリ並みのハイトーンで、女性のキーで歌っていて。最初は「さかいさんの新曲だ!」って楽しみながら聴いてたんですが、レコーディングまでの時間もそんなになかったし、速攻でメロディを覚えましたね。

ーーレコーディングはどうでした?

さかい:さっきのライブ会場の大きさの話でいうと、東京ドームと小さなジャズクラブでは、いい演奏の質が違うじゃないですか。ドラムがいちばんわかりやすいんだけど、ドームでは「バーン!」と音が飛んでいくような叩き方ができないといけない。でも、ジャズクラブで同じようにやったら、「シンバルがうるさい」ということになる。新妻さんが最初にこの曲を歌ったときも、同じような現象が起きてたんですよね。歌が上手過ぎたし、表現力もあり過ぎて、トゥーマッチだったというか。僕としては何度も聴いてもらえる曲にしたかったし、そのためにはこの歌詞とメロディに合った歌い方をしてほしかったから、新妻聖子が持っているテクニックをいったん置いて、素の新妻聖子で歌ってもらったんです。具体的に言うと、歌詞を全部カタカナで書いて、それを棒読みしてもらいました。

新妻:おもしろい経験でした。一度歌ってブースから戻ってきたら、さかいさんが歌詞を全部カタカナで書いていて。最初、遊んでるのかと思ったんですよ。もう飽きちゃったのかなって。

さかい:違うよ(笑)。カタカナで歌うっていうのは、大瀧詠一さんがやってた方法なんだよね。

新妻:つまり「歌詞の内容を表現しないで、音としてアウトプットしてみて」というサジェスチョンだったんですけど、自分のなかの感情のスイッチを完全にオフにして歌ったら、本当に棒読みみたいになっちゃって(笑)。

さかい:(笑)。でも、3~4回歌ったら、いいテイクが録れたんですよ。売れるポップスって、歌詞とサウンドと歌がフィットしてるんです。そういう曲は安心して楽しめるじゃないですか。人ってわけのわからないもの、異物感があるものには手を出さないから。そこは大事にしましたね、今回も。

新妻:レコーディングが進むにつれて声が変わっていくのが自分でもわかったし、最初のテイクとは全然違っていて。ミュージカルは大勢のお客さんに向けて表現するから、それに慣れていたんですよね。今回の場合は、2階のいちばん奥の席まで届かせるような姿勢ではなくて……。

さかい:ポップスは(リスナーと)1対1だからね。“あなた”って歌えば親近感も生まれるし。

新妻:そのアドバイスをもらってから、自分の歌がさらに変わりました。それはすごく楽しかったです。いままでにも同じようなことを言われたことがあったんだけど、そのときはまったく耳に止まらなくて(笑)。

さかい:新妻さんは自分に自信を持っていらっしゃる方なので、「何を言われても染まらない」と自分で思っているところがあるんでしょうね。それでいいというか、こっちが言うことに完全に染まられても困るんだけど(笑)。

新妻:私は海外育ちのせいもあって、回りくどい言い方が苦手なんですよ。「作品が良くなれば過程はどうでもいい」というタイプだし、ハッキリ言ってほしくて。さかいさんは歯に衣着せぬ言い方をしてくれるから、すごくやりやすかったです。

さかい:……回りくどく言ってたつもりなんだけどね(笑)。まあ、俺自身が「何回も聴きたい」と思える曲になったから、それでいいです。


新妻:良かった。テイクのセレクトも全部さかいさんにお願いしたし、本当に“Produced by さかいゆう”という感じなんですよ。レコーディング中は何がどうなってるのか半分わかってなかったんですけど(笑)、根本にリスペクトがあったし、「あとはお任せします」という感じで。自分でディレクションしたら違う感じになっていただろうし、さかいクオリティの歌になっていると思いますね。

ーー歌詞のテーマについては?

さかい:みんなに当てはまるような歌詞にしたいと思ってましたね。テーマとしては……生きているといろんなことを求めるじゃないですか。「25歳の頃がいちばん良かった」と思うこともあるだろうし。でも、結局はいまの場所だったり、その瞬間をハッピーだと感じられるのがいちばん合理的じゃないかなって。

ーー普遍的なテーマですよね、それは。

さかい:そうですね。俺は基本的に、自分を励ますためだったり、自分の恋愛を肯定したり、否定するために歌詞を書いてるというか。職業作家みたいな感じではなくて、私小説と自伝の間くらいの歌詞が多いんですよね。「アライブ」もそうで、すごく自分が出ているなって思います。もちろんコンセプトに合わないところ書き直しましたけど、9割6分くらいはそのままですね。

新妻:すごくポジティブなエナジーに溢れているんですよね、歌詞もメロディも。私、ミュージカルでは不幸な役をやらせてもらうことが多くて、いつも恨みつらみばかりを歌っているんですけど(笑)、会う人には「明るいですね」って言われるしーー本当はネクラな部分もありますがーー明るい曲も歌いたいと思っていたので、「アライブ」みたいな曲を作っていただいたのはすごく嬉しくて。あと、さかいさんとは同世代だし、30代半ばになって、アラフォーに向かっていく世代として、「わかる!」と共感できる部分も多いんですよ、この歌は。がむしゃらに20代を過ごしてきて、歌手活動を初めて15年くらいが経って、次の15年をどうするかを考え始めて。それなりにもがきながら生きてきたからこそ、いまの自分の生き様やスタンスがあるし、そのなかで出会った人もたくさんいて。いまは「生きてるだけで丸儲けだな」と思うし、この曲の歌詞もすごく刺さってくるんですよね。

ーー先に進んでいく力も与えてくれる曲ですよね。

新妻:そうですね。私の周りは主婦やお子さんを育てている女性も多いし、Facebookを見ていても、キャリアに対してメラメラ闘志を燃やしているのは私くらいなんです。「私、青くてウケるな」って思うんだけど(笑)、そんな自分にもフィットする歌詞を書いてくださったなと思っています。

さかい:“生きている”のアライブ(alive)と“到達する”というアライブ(arrive)の2つの意味がありますからね。

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