チャリティ・オークション「ビバラオークション」開催記念対談

鹿野 淳×家入一真が語る“音楽フェス通じた社会貢献” クラウドファンディングで広がる新たな価値観

 5月3日から5日までの3日間、さいたまスーパーアリーナで開催される音楽フェス『VIVA LA ROCK 2017』が、埼玉県内の障害者の文化的活動を支援するチャリティ・オークション「ビバラオークション」の開催を発表した。ビバラオークションでは、クラウドファンディングCAMPFIREとタッグを組んでシステムを構築し、ヤフオク!を利用した特設サイトをオープン。出演アーティスト全面協力のもと、使用楽器や機材、ステージ衣装や演出物、私物などが出品されている。オークションはネットを通じて実施されるが、フェス開催中、さいたまスーパーアリーナ内400Lvに設置のブースにて出品物を実際に陳列。その場でオークションに参加することもできる。

 リアルサウンドでは3月にプロデューサー鹿野 淳氏へのインタビューを掲載したが、今回は「ビバラオークション」について、同氏と株式会社CAMPFIREの代表取締役・家入一真氏による対談を行ない、「ビバラオークション」始動のきっかけや両氏のチャリティー、クラウドファンディング、オークションに対する価値観について、じっくりと語り合って貰った。(編集部)

 

「新しい音楽と音楽家のあり方が、音楽フェスティバルの中から出てくれば良い」(鹿野)

ーーまずは今回の「ビバラオークション」を始めることになった経緯についてお伺いさせてください。

鹿野:さいたまスーパーアリーナで開催している『VIVA LA ROCK』は、埼玉県在住の方だけでチケットが100%売れたらそれも素晴らしいことなんじゃないか、と思えるくらい埼玉県にフォーカスしているフェスなんです。なので、毎年なにか新しく「For the 埼玉民」と呼べるようなプロジェクトを考えていて、昨年は大宮が北の玄関であることや東日本大震災から5年ということを踏まえ、被災地への募金活動を行ないました。直前に熊本大震災があったこともあり、東北と熊本への寄付として結果的に350万円が集まり、みなさん一人ひとりが起こすアクションの大きさに驚きと感動を覚えました。それを踏まえて、今年も何かできないかと調べていたら、埼玉県では障がい者に対する色んなケア・サポートを行なっていると知り、県庁へヒアリングに行ったんです。障がい者向けの支援事業・文化事業は様々ですが、やはりスポーツ分野の取り組みが多かった。でも、障害者の中でも絵画を描くことが好きな方もなかにはいらっしゃる。埼玉では年に一回、埼玉県障害者アート企画展『UFU SAITAMA±〇』が開催されているんです。規模はかなり大きなものですが、一般的にはあまり認知されておらず、行政の方もまだできることがあるはずと強く思っているということで、これを支援したいと考えました。

ーーチャリティー活動として、音楽フェスの名前を冠して行なうことの意義・目的とは?

鹿野:新しい音楽と音楽家のあり方が、音楽フェスティバルの中から出てくれば良いとずっと思ってるんです。そのなかで、「埼玉県にこのフェスがあるから出たい」と思う地元の方が出てくることは有意義なことだと思っています。言葉にしにくいですが、障がい者の方は、障がいがあることによって、特異な部分と得意な部分を持っていたり、努力して磨いている方が多いと思うんです。それは歴史が証明しているし、音楽家でも証明している方はたくさんいる。スポーツにはパラリンピックがありますが、芸術分野でも同じ類のものが出てきても良いんじゃないかと考え、最終的にはその中で秀でた才能が『VIVA LA ROCK』を通して出てくればもっと素晴らしいし、今回はそこへ向かうための一歩として、支援活動がしたかったんです。

家入:なるほど。

鹿野:支援活動をどうすればいいかと思ったときに、グラミー賞の存在があって。僕はグラミー賞の授賞式に3年連続で行っているんですが、「ミュージケアーズ・パーソン・オブ・ザ・イヤー」という、音楽家の音楽業界における芸術的功績と慈善活動に対する献身性を讃えて毎年授与する賞がある。授賞式の前日には「オールスター・トリビュート・コンサート」として、その受賞アーティストを敬って豪華な面々が集結した大トリビュート大会が行なわれ、最後には本人も登場してその功績を祝いあおうという企画があります。その関連企画としてオークションも開催されていて、ジョン・レノンがオノ・ヨーコに渡した楽譜や、デヴィッド・ボウイの衣装などが出品され、その売上が「困窮する音楽家に健康面や医療面で支援することを目的」に設立した非営利の医療組織・ミュージケアーズに支援されます。その光景を実際にこの目で見て、オークションに出品されたもの自体がロック・ミュージアムとして素晴らしいものだし、さらにそれが支援活動につながるのも素敵だなと思いました。僕らもそれに近いことを、ロックフェスでアーティストに頭を下げることでできるかもしれない、それが埼玉県の方に向けた支援にもつながるかもしれないということで、今回のオークション企画を始動させました。

鹿野 淳氏

ーーでは、なぜそこでCAMPFIREをパートナーに選んだのでしょう。

鹿野:前提として申し上げると、僕は今回のプロジェクトで関わるまでCAMPFIREを使ったことがなかったし、よく存じ上げませんでした。オークションを始めることにしたのはいいものの、僕自身仕組みがよく分かっていなかった。大手のサービスを使ったとしても、こちらの意思が通じにくいんじゃないかと勝手に思っていたし、気心が知れて顔が見えるところとできないかなと考えていて。よくわかってないながらに「オークションとクラウドファンディングのシステムって、もしかして大差ないのかな」と感じていたので、クラウドファンディングを扱っている会社のなかでもカルチャー系に強いCAMPFIREにたらればで話をしてみたら、ポジティブなお返事をいただいたんです。家入さんとお会いするのは今日が2回目ですもんね、まだ(笑)。

家入:CAMPFIREでは音楽事業部というものもあるくらい、音楽についてのプロジェクトは多いんです。サービスがスタートしてから5〜6年が経つのですが、本当にアーティストの為に何ができているのか、クラウドファンディングが果たしてアーティストのためになっているのかを自問自答し続けていて。そんなときに音楽フェスを通じた社会貢献という今回のお話をいただき、ご一緒させていただくことになりました。

ーーオークションに関してはCAMPFIREとタッグを組み、ヤフオク!のシステムを利用するということですが、具体的にはどのような形で運用されるのでしょうか。

家入:今回はアーティストのチャリティーオークションにも強いヤフオクさんのシステムを使うのですが、CAMPFIREは『VIVA LA ROCK』とタッグを組んで、音楽業界に関する知見も提供する橋渡しの役割を果たさせていただきます。もともと、CAMPFIREは東日本大震災直後にオープンしたんですけど。

鹿野:そうなんだ、そこに必然性があったんですか?

家入:本当は震災のあった時期くらいにオープンする予定だったんです。当初はアートやカルチャーを応援していこうという目的でしたが、そうも言っていられない状況になって。実際に震災復興プロジェクトが沢山上がってきたり、ここ数年でクラウドファンディングを使った支援活動もメジャーなものになってきました。ただ、地域で活動しているNPOの方のお話を聞いていると、クラウドファンディングは疲れちゃうみたいなんですよ。 例えば3カ月という期間で目標金額を決めて、期間内で友人知人に連絡したり、会う人会う人にお願いしたり、SNSで細かく告知したり、メールで連絡したり。お金をいただいた方に何かしらを返すというのは当然の帰結ではあるものの、「疲れるから二度とやりたくない」という意見に対して、実際に自分たちの取り組みが社会貢献になっているのかと、同じように自問自答しました。そのなかで、社会貢献ーーソーシャルグッドの領域として「GoodMorning by CAMPFIRE」をスタートさせて、寄付型の支援方法を始めたり、月額課金型のシステムを作ったんです。加えて、オークション的な仕組みも検討している段階で、システムを作ってしまうとお金がかかるので、どうしようかとなっているところで、タイミング良く今回のお話を頂いたことも大きいですね。

鹿野:クラウドファンディングとオークションの違いがわからないと言ったけど、案外間違ってなかったわけですね。

家入:そうですね。僕らが本質的にやりたいのは単体での課題解決ではなく、もっと広いテーマに対して支援をしていくということで。日本の中でも貧困やシングルマザーの子どもたちをサポートしているNPOが多数あるように、一つのことに対して一つのコミュニティが動くというわけではないので、課題単位で集めて、それを分配する仕組みが必要なのかなと思っているんです。クラウドファンディングは、場を作るだけじゃだめなんですよ。プラットフォーマーとして、僕らは「場を提供するので、好きに自由に使ってください」じゃダメで、一つひとつの課題に対してできることを考えないと課題ごとにバラつきも出ますし、怪しい企業が審査をすり抜けて入ってくるかもしれない。それだけで印象はガラリと変わってしまいますから。あと、僕の友人もアウトサイダー・アートをやっていて、素晴らしい人が多いことは知っているんです。なかには知的障がいを抱えていて、工場で割り箸を筒に入れるお仕事をしている方がいらっしゃって。本来は刺したら次に回さなきゃいけないんですけど、その方は介護サポーターがいないと同じ容器に次々と箸を刺し続けてしまうんですよ。ある時、そのサポーターが「これを止めなかったらどうなるんだろう」と思って、一定数様子を見てみたら、割り箸がどんどん重なっていって、美しい木のようなオブジェができたという有名な話があるんです。このように、本人は自覚してやっていることではなくても、サポートする人が才能を開花させるケースも多いそうですね。

家入一真氏

ーーその人だからこその適性を見出すというか。

鹿野:芸術ってそもそもそうですよね。表現者自体が初めから評価されるケースは少なくて、その人をどうサポート・プロデュースするかによって初めて世の中にでれたり、その活動がプロモーションされていく。それは音楽業界にも置き換えられることで、才能あふれる人たちは沢山出てきているけど、上手くプロモーションしてくれる人と出会えず、世に出る時期が遅れたりするアーティストもいます。なかには人との出会いによって、数年後に才能が覚醒することもある。芸術はタニマチによって作られてきたという事実も間違いなくあって。家入さんが話されたことは、周囲の人たちが彼らの表現していることに光を当ててあげるのが重要で、それが特技になるかどうかの判断は光に当たったものをユーザーが面白がるかどうか、アートとして受容するかどうかに委ねられる、ということだと思うんですよ。それは音楽フェスティバルにも言えることで、昨今これだけフェスが増えて、マーケットの多くを担うようになってきた。僕がやっているのはロックフェスーーつまりロックというマニアックなジャンルにいながら、一方でフェスというマニアックではない立ち位置にもなっている。そこにはいろんな価値観の人や、音楽がそんなに好きでもない人も集まってくるわけで。そうした時にどうやって音楽的な楽しみとエンタテインメントをフェスとして届けられるか、どんな役割を担うかを考えながらやっているわけです。その上でみんなに音楽を好きになってもらう交差点がフェスだと思うんです。だから、ある意味ポップだとみなされていない人たちの中にあるポップさに光を当てることを役割とするフェスがあってもいいんじゃないかと思っていて、ビバラはそうあればいいなあという気持ちも強く持っています。

家入:いま鹿野さんが言ったようなタニマチやパトロンって、昔は見返りを求めずに大口のサポートをしてくれる人が多かったからこそ成立している部分だと思うんです。僕らのやっているクラウドファンディングは、インターネットを使って小口のマイクロパトロンを集めるという考え方で、まさしく今まで光が当たっていなかったところに、光を当てられるようになれればいいなという考え方なんですよね。ただ、クラウドファンディングという特性上、アーティストがそこに踏み込もうとすると、「さらに稼ごうとしている」という穿った見方をする人も少なくないのが現状で。今回のように、チャリティーとして使っていくことで、少しでもその不安や疑念が払拭されればいいなと考えています。

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