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ケンドリック・ラマーは“現ヒップホップ・シーンの救世主”だーー渡辺志保の『DAMN.』徹底分析

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 アルバムが発売された2日後、ケンドリック・ラマーは米最大のフェスとも言われるコーチェラ・フェスティバルに参加。3日にわたり行われたフェスのトリを務めた。『DAMN.』を発表した直後のケンドリックが、どんなパフォーマンスを行うのか、現場にいたオーディエンス、そして、インターネット中継でストリーミング視聴していたオーディエンス全てがステージに登壇する彼の姿を待ちわびたのだった。冒頭、今回のアルバムで登場するケンドリックのオルター・エゴともいうべきカンフー・ケニーをフィーチャーしたショート・ムービーが流れ、その後、ケンドリックは「DNA.」のパフォーマンスとともに登場した。『gkmc』や『TPAB』からの楽曲もバランス良く配置し、途中、同じレーベル、<TDE>のスクールボーイ・Qやトラヴィス・スコット、フューチャーまでも呼び込み、名実ともに現ヒップホップ・シーンのトップに君臨するMCらによる豪華なステージングを披露した。最後は巨大スクリーンに「結束」(中国語で「終了」を意味する)と映し出し、ケンドリックは単語の間に「マザーファッキン」を頻出させながら、観客へのお礼、そして新作『DAMN.』のリリースを伝え、ステージを後にした。

ケンドリック・ラマー「DNA.」

 さて、アルバムの内容だが、本編1曲目となる「BLOOD.」の冒頭のコーラス<Wickedness Or Weakness>(邪悪さか、弱さか)に顕著なように、アルバム全体を通して、ケンドリックは相反する二面性を描き出している。それは「LUST.(欲望)」と「LOVE.(愛)」、「PRIDE.(強欲)」と「HUMBLE.(謙虚)」など、各曲のタイトルを見ても明らかだ。自身を非難するFOXニュースのナレーションや、身近な家族のトピックを幾度となく交えながら、「自分は神の子、世界最強のラッパー(The Best Rapper Alive)」と言ってみたかと思ったら「俺はパーフェクトではない」と弱音を吐いて見せるなど、本作においては、“個人”をあらゆる側面からとことん掘り下げることに執着しているようにも思える。

 事実、ケンドリックはBeats 1ラジオの最新インタビューにてこのように語っている。「『TPAB』では、俺たちがどうやったら世界を変えられるか?ということをアルバムにまとめた。『DAMN.』では、自分自身が変わらないことには、世界を変えることはできない、という点にフォーカスした」。加えて、“個人”という点に関しては、アルバム内でも触れられているトランプ政権の問題に絡めて「俺たちはトランプにフォーカスしているわけじゃない。もっと、自分自身にフォーカスしているんだ。それぞれ異なる民族や文化が一緒になって、それぞれを守っている。俺たちはもっと、個人の問題や解決法を模索していかなきゃいけないんだ」と、混乱する現代社会(特にアメリカ社会)の中で、より“個人”の問題を重視すべきとの見方を示している。

 これは、前作では一つの信念や共通の概念のもとに希望を忘れず「大丈夫だ」と社会を鼓舞する楽曲「Alright」がアルバムのハイライト的であったのに比べ、今作では自身の強さや他者への牽制(この場合は<他のダサいラッパーらへの牽制>という意味合いが強いが)、自分自身を高めていくことを主軸とした楽曲、すなわち「HUMBLE.」や「DNA.」と言った楽曲にスポットライトが当たりがちなことからも、二作のコントラストがはっきりと表れていると言えるかもしれない。U2が参加した「XXX.」では、あからさまなリリックでトランプ現大統領を揶揄する場面もある。

 ケンドリックがこれまでに語ってきた、地元コンプトンで育ち、葛藤を抱えながらスター・ラッパーとしてサヴァイブする、というテーマは、本作『DAMN.』においても一貫している。ただ、今回はより生々しい感情をあらわにすることによって、ケンドリック・ラマーという一人の人間がより浮き彫りになったアルバムとなった。と、同時に、我々はケンドリックが抱いている感情ーー気分の浮き沈みや孤独、愛情を渇望する様子ーーは自分自身と変わらないことに気が付く。同時に、いくつものレイヤーに自身のスピリットを込め、丹念に、そして技術的にも複雑な形で自分の感情をライムに紡いでいく彼のスキルは、やはり世界最高基準にあると言っていい。前作に続き、ラップ・ミュージックにおけるナラティブ性をどんどん高めていくケンドリックは、彼も楽曲内で言っている通り、“現ヒップホップ・シーンの救世主”なのである。

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
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blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演 

      

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