6thシングル『orion』リリースインタビュー

米津玄師が明かす、“新しい音楽”が生まれる場所「子どもの頃の自分にお伺いを立てながら作る」

「自分がまともだった瞬間はもう過ぎ去ってしまったんじゃないか」

——2曲目に収録された「ララバイさよなら」はギターバンド的なサウンドですね。特にベースラインがかっこよくて、畳み掛けるように感情を吐き出しているというか、強いエモーションを感じて痛快でもありました。こちらも「orion」と同時期にできた曲ですか?

米津:「orion」を作り終わったあとですね。自分としては怒りというより、失望、諦めという感覚が近いかもしれない。あまり突っ込んだ話をしてしまうといろんな人に怒られそうなので、これくらいに留めておきますが(笑)。

——わかりました(笑)。サウンドとしては、あえて音数を少なく仕上げていますね。

米津:そうですね、自分で演奏して。最初はもっと音数の多くて、割りと作り込んだ感じのアレンジもあったんですけど、この曲はそういうものじゃなかった。違うなと思ってどんどん削ぎ落としていった結果、本当に作りかけみたいな曲になって。それが一番よかったですね。自分史上、一番(音数が)少ないんじゃないかなって。

——ロックサウンドとして非常に新鮮でした。多くは語れないという意味深い曲ですが、「ララバイさよなら」というタイトルはストレートです。

米津:そうですね。自分がそもそもすごく皮肉屋な部分があるんで、そういうところがよく出たタイトルだなと思います。

——皮肉や毒という、何かに対する怒りのような感情は、10代の頃から変わらず自分のなかにあるという感覚ですか? それとも、やはり少しずつ変わってきているのか。

米津:どうでしょうね、それも昔に比べたらなくなったかもしれません。昔はもっと皮肉屋でした。皮肉を言うのは、いろんなものに期待しているからなんですね。期待していなければ、皮肉を言う必要もない。皮肉というのは「自分を愛してほしい」ということの裏返しで、そういう部分は昔のほうがものすごく強かったです。

——そしてもう一曲、「翡翠の狼」ですが、「orion」と共通している部分があって、つまり孤独感と、一方でキラキラした楽園的な部分がせめぎ合っていますね。

米津:この曲は、なんて言ったらいいかな……圧倒的に自分のことですね。

——なるほど。<高めの崖を前にほら嘆く 誰かの力借りりゃ楽なのに>というフレーズのように、少し距離をとって自分に突っ込んでいるような部分もあります。

米津:そうですね。この曲はワンコーラスだけ2015年くらいからあって、そこに継ぎ足して完成させました。だから、自分としてはワンコーラス目とそれ以降で全然違うんです。当時も、今も、同じことを考えながら作っていたんですけど、明らかに違和感がある。客観的に聴いてどう感じるのかはわかりませんが、自分が1〜2年で変化して、あの頃の感覚とは少し違っているから、その切断面が見えてしまうんです。ある意味で、奇しくも自分の歩んできた道のりが表現されている曲になったのかな、と自分では思っています。

——以前とは違う、米津さんの切断面とは。

米津:昔はいろんなことに期待していて、それゆえに絶望を抱いたりもして、それを繰り返してどんどん深みにハマっていくことがあって。でも最近は、良くも悪くもそういうことがなくなってきている。今も生きていて興奮することとか、ワクワクすることは確かにあるんですけど、そういうものをもう全部使い果たしてしまったんじゃないか、と思うこともあるんです。これから先、ワクワクすることがあっても、それは今まで見てきたものの亜種というか、本当に感じたことのない美しさだとか、そういうものはもう二度と現れないんじゃないかと考えてしまう瞬間があって。「若輩者が何を言っているんだ」と思われるかもしれないけれど、現にそう思ってしまうからしょうがない。

 ただ、こういう問答をしているからこそ、この曲の歌詞が書けたんだろうなと思うし、それは気の持ちようと言うか、「それはそれで美しいものが作れるんならいいじゃないかな」と、なんとなくポジティブに考えています。

——もう新しいことは起きないかもしれない、という思いが創作の源になることもありますね。ある種の“諦め”のような感覚が、今の米津さんの創作の源の一つになっているのかもしれない、と今のお話を聞いて感じました。

米津:自分がまともだった瞬間はもう過ぎ去ってしまったんじゃないか、という感覚ですよね(笑)。今も25歳なりの青春なんだろうけれど、10代の頃の青春とは違う。『ベンジャミン・バトン』って映画、ご存じですか?

——はい、80歳の状態で生まれた男が、年をとるごとに若返っていく。

米津:そうそう。ある女の子と恋愛関係になっていくんだけど、二人が年齢的にクロスするのは一瞬で、その後はもう過ぎ去っていくばかり。それと同じように、俺にとってのまともな時間って、もう遠くに過ぎ去っているのではないか、と思ったりします。

——そういう感覚のなかで作った音楽が、不思議な明るさ、抜け感を持っているのがおもしろいと思います。

米津:結局、そういうことを思いつつも、自分の中にいる子どものころの自分を“信仰”しているから、救われるんです。あまりにも毎日がつまらないから(笑)、この子に救ってほしい、と思った。だったら、希望に満ちあふれているあの頃の自分に対して恥じないような音楽を作るべきであって、ワーワー言うててもしょうがないな、と。

——もうひとつ聞いておきたかったのが、ライブについてです。ダンスが非常に印象的で、米津さんの表現において、身体性という要素がすごく大きくなってきたんじゃないかと思いました。サウンドもダンスミュージックに傾斜しているところがありますが、やはり変化してきたんでしょうか。

米津:確かに今、身体性が自分に伴ってきているな、という感覚があります。ダンスの練習とか、筋トレにまじめに取り組むようになって、作る音楽も変わってきたりしていますね。それも考えてみれば当たり前のことで、精神と肉体って、それぞれ独立しているわけじゃないですから。三島由紀夫が太宰治に対して、「お前の悩みなんて、乾布摩擦でどうにかなる程度のものだ」と言いましたが、実際に身体を整えれば、心の悩みなんてある程度、なくなってしまう。身体を鍛えることで身体的なメロディーの作り方をするようになったし、そういう歌い方もできるようになって、それは今までの自分に足りなかったものだから、すげえ新鮮で楽しいですね。

——ライブパフォーマンスにもサウンドにも変化の兆しがあり、期待が高まります。今年は多くの作品が聴けそうですか?

米津:今年は、めちゃくちゃ曲を作る年になると思います。曲ばかり作っているし、たぶんいろんな新しいものを見せられるんじゃないかなって。まだ全体像は見えていないんですけど、毎回同じことをやってもしょうがないし、聴き応えのあるものにしたい、という意気込みは強いですね。

(取材=神谷弘一)

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■リリース情報
米津玄師 New Single『orion』
発売:2月15日(水)
価格:オリオン盤((初回限定)CD+クリアシート+ハードカバー仕様)¥1,700+税
ライオン盤((初回限定)CD+DVD+紙ジャケット仕様)¥1,700+税
通常盤¥1,200+税
<CD収録曲>
M-1:orion  ※NHK総合TVアニメ『3月のライオン』第2クール エンディングテーマ
M-2:ララバイさよなら
M-3:翡翠の狼

<DVD収録内容>※ライオン盤のみ
『3月のライオン』第2クールエンディング ノンクレジットムービー

特典対象店舗:TOWER RECORDS/TSUTAYA RECORDS/アニメイト/応援店
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