3rdアルバム『TRICK』リリースインタビュー
TRUSTRICKがたどり着いた“トリック”ではない強み「化学反応を継続できている実感がある」
「『神田沙也加のボーカルに対してはそれぐらいしないとな』と思って」(Billy)
――その2曲にTVアニメ『ダンガンロンパ3-The End of希望ヶ峰学園-未来編』(TOKYO MXほか)のEDテーマ「Recall THE END」を加えた最初の3曲があって、次の「blur blur」では一度ガラッと雰囲気が変わりますね。海外のお洒落なR&Bと言われても不思議じゃない曲になっていて。
Billy:自分が通ってきたのがそういうものだったので、好きにやらせてもらった結果こうなりました。ただ、今までTRUSTRICKでやってきたお洒落な7th系(のコード進行の楽曲)と違うのは、ベースラインをよりノレるものにしたことです。これはちょっとやってみたかったんですよ。
――神田さんの日本語も英語っぽい歌い方になっていて、これも全体の雰囲気を上手く作っていると思います。
神田:歌は「軽やかにする」ことを意識しましたね。TRUSTRICKの曲はどれも割とそうなんですけど、1音に対しての文字の詰め方によって、活舌を甘くすると英語に聞こえる揺らぎのようなものを意識しているところがあるんです。
Billy:次の「pixie」も、アメリカンな要素があるという意味で「blur blur」と繋がる曲です。「pixie」はアメリカン・ギター・ポップでありつつちょっとエレクトロの要素を加えた曲で、これも「ノレるものでありつつ……」ということを意識しました。
神田:この曲はもともと、EP『innocent promise』の時のカップリング候補だったんですけど、内容は“ダメな女の子”の歌なんです。今回、「何をもって『TRICK』とするか」というテーマを考えた時に、まずはいつもお願いしているデザイナーさんがその部分を担ってくれて、十分説明的なものが出来ていて。じゃあ「中身をどうトリックにしよう?」「大人も子供も逃れられないトリックって何?」と考えていった結果、それは“恋”だと思ったんです。それで今回のアルバムは恋愛に特化して歌詞を考えていきました。この曲はタイトルに泣きウサギが隠れているんですよ(「i」の部分がウサギの目になる)。内容としては、判断能力が鈍っている女子の気持ちをアメリカンなポップスに乗せる、という自虐的にも思える試みを楽しんだ感じですね。
――続く「mint gum」は『innocent promise』カップリング曲のリテイクバージョンですが、ガムだけに「sugarless version」になっていますね。
Billy:「甘すぎない」ということですね。今回は秋~冬らしい「mint gum」ってこうだよね、ということで新たに加えたストリングス・アレンジも暗めにしました。チェロ、バイオリン、ビオラを重ねたんですけど、その音色や歌と、前もって自分が入れていたギブソンのギターの音が合わなくて、「この歌声とアレンジに合うものにしよう」とレコーディングの休憩中に楽器店までテイラーのアコースティック・ギターを買いに行ったりもして(笑)。この歌声じゃなかったら、そういう気持ちにはならなかったと思います。「神田沙也加のボーカルに対してはそれぐらいしないとな」と思って。
神田:何だ何だ、怖い怖い(笑)。
Billy:その時しみじみと思ったんですよ(笑)。その結果、スタジオの時間も延長していただいて、大変なレコーディング作業でした。
神田:この曲はオリジナルの時点で「完成形」というイメージが2人とも強かったので、リテイクをしようにも単にテンポを変えただけの弾き語りバージョンになってしまって納得がいかなかったり、2回ぐらいレコーディングをバラしてしまったりしたんです。なので、歌詞も一部変えるなど、最終的には容赦ないバージョンになりましたね。映画によくある、同じ物語を題材にした分岐点というか……“世界線の違い”のようなイメージです(笑)。
――その後、「LOVELESS」や「星の無い夜」の辺りから、アルバムは徐々にパーソナルな雰囲気が増していきますね。歌詞もサウンドもTRUSTRICKの深い部分が出てくる印象で、「LOVELESS」の歌詞なども神田さんらしいタイプのものになっている印象です。
神田:つまり、だんだん暗くなっていくんです(笑)。深層心理に迫っていくようなイメージで。毎日のようにレコーディングしていると、集中出来たり、出来なかったりする周期があるんですけど、今回はそれがいい時期に当たったので、自分っぽい歌詞をそのまま書き残すことが出来たんだと思いますね。それもあって、今回の『TRICK』は私自身すごく気に入っているんですよ。「LOVELESS」や「寂しさの宙から」は特に私らしい歌詞になったと思います。
Billy:今回は濃いものが出来たなぁ、と思いますね。やっぱりアルバムでしかやれないことってあると思うんですよ。
――そこに「innocent promise」「未来形Answer」といったEPのリード曲が入ってくるのが後半の流れですね。この辺りで、特に制作中に苦労したことはありましたか?
Billy:後半のアルバム曲はスルッと出てきた感じです。タイアップ曲の場合は作品に寄り添いつつ自分たちらしさを出す必要がありますけど、パーソナルになればなるほど曲は自然に出てくるので。
神田:最近は曲の難易度が上がってきているんですよ。たとえば序盤だと「Recall THE END」はメロディーがすごく動くし、早いし、レンジが広くて、正確に決めないと決まらない難しい曲で。アルバム後半だと「LOVELESS」や「Honey Complex」辺りがそうなんです。音が詰まっていて、私も言葉を詰め込んでいるので、歌いこなすまでに時間がかかりました。
Billy:TRUSTRICKの場合、メイン曲は印象に残るようにするために、音符を少なめに作っているんです。でも本当は音を詰め込むのが好きなので、メロディも裏で取るようになっていたり、ちょっとR&Bっぽいものになることが多いというか。たとえば、(バンド・サウンドでも)レッチリはR&Bじゃないですか? そういうところからの影響が出ているんだと思います。
――細かいこだわりが随所に隠されている、と。
神田:でも、レコーディングでそれが沸点に達すると「ちょっと、一回自分で歌ってみろよ!」ということで、「Billyくんが責任を取って歌ってみるタイム」が始まるんですよ。これはBillyくんが自分で作った歌の難しさを確認するという、謎の時間なんですけど(笑)。
Billy:一応歌いながら作ってはいるんですけどね。でも「Recall The END」は自分で歌って見て、流石に「ごめん、これは確かに難しかった!」と反省して……(笑)。
神田:特に「Recall THE END」はライブでの初披露が『Animelo Summer Live 2016 刻 -TOKI-』で、「これ以上ない初披露だけど、これ以上決めなきゃいけない場所もない」という感じで、本当に不安でした(笑)。もちろん、だからこそ思い入れのある曲になっているんですけどね。
――思い入れのある曲というと、今回はファンの間でCD化が待たれていた「Proud」がいよいよアルバムに収録されていますね。これがアルバムのラストに入ったというのも、今回の大事なトリックと言えそうです。
Billy:「Proud」は考えに考えて、「やっぱり最後に入れるしかないよね」という話になりました。随分前に出来た曲ですけど、音も歌詞も今回の作品のここに位置するための曲だったのかな、と思っていて。
神田:最初は映像作品『TRUSTRICK First Film “Iolite”』のエンドロールでしか聴くことが出来なくて、その後EP『innocent promise』付属のDVDにライブ映像が収録されたという感じで、映像と一緒じゃないと聴けない、ある意味不自由さがあった曲で。そんな曲を、どこでも再生できるよう渡せるタイミングが来たのは、すごく意味があることだし、パーソナルに振れた作品を締めくくるのが、温かみのあるこの曲だというのも意味があると思うんです。これはTRUSTRICKの音楽を聴いてきてくれた人たちへの「お礼」ですね。