栗原裕一郎が花澤香菜ワンマンライヴ『HAPPY HANAZAWEEEEN』をレポート
花澤香菜、ハロウィンライヴでエンターテイナーぶり見せる ポテンシャルの高さ発揮した一夜をレポート
「Trace」から「あたらしいうた」へ
各曲についてもう少し細かい話に移ろう。
今回のワンマンのきっかけのひとつになったと思われる冒頭で紹介した会話にもあったように、花澤は、新曲でも生の歌唱と演奏に接することのできる機会が少なかった。今年2月に発売された『透明な女の子』は、プロデュースした山崎ゆかりの所属する空気公団を迎えてリリースイベントで1度演奏されただけ。6月発売の『あたらしいうた』のリリイベはカラオケ(+北川のアコギ)でこなされ、生バンドで演奏されたのは『NAOMIの部屋』(NHK総合)の公開収録の1度きりに留まっていた。
そんなわけで個人的にもっとも聴きどころだろうと考えていたのは、ディスティネーションズの演奏による「透明な女の子」と、生バンドで歌われる「あたらしいうた」の2曲だった。
「透明な女の子」は2曲目に演奏された。CDのヴァージョンについてはドラム、特にスネアの音色が特徴的だなと思っていたのだが、SATOKOのドラムにはそんなに印象の齟齬はなく、むしろ山之内のギターの音色やフレーズにディスティネーションズらしさが現れていたように感じた。花澤の歌も心なしかエモーショナルだった(かな?)。
「あたらしいうた」は10曲目、「Trace」に続けて演奏された。「Trace」は「かなめぐり」のときと同様に末永華子のピアノだけをバックに歌われたのだが、「Trace」から「あたらしいうた」への流れとコントラストは本当に素晴らしくて、見所満載のこの日のなかでも最大のハイライトだったといっていいのではないか。
『かなめぐり』で掴んだものを「あたらしいうた」に込めたと花澤は語っていた。2曲をこうして繋げた意図は、そのプロセスをギュッと凝縮して見せようということだったのだろう。「あたらしいうた」は、静謐から一転、音圧が一気に上がったかのような熱量の演奏で、花澤の歌はその圧と熱によく拮抗しねじ伏せていた。端的にいって、花澤香菜は歌がうまい。うまいというしかないだろう、これはもう。
さっき触れた「trick or treat !」(『happy endings』c/w)のライヴ初披露に続けて、もう一曲『KANAight〜花澤香菜キャラソン ハイパークロニクルミックス〜』に収録されたキャラソン「sweets parade」も初めて演奏された。この曲に対する反響は大きかった。花澤がどういうアニメのどういう曲なのか説明しようとしたところ、タイトルを告げた途端にどおっと雄叫びが上がって掻き消され、「そっかそっか説明しなくていいか」と花澤が苦笑いするという、武道館での「恋愛サーキュレーション」初演時のデジャヴュのような光景が広がったのが印象深かった。
アンコールでは、新曲のリリースが告知され、初演もされた。タイトルは「ざらざら」で11月30日発売。作詞は花澤自身、作曲は秦 基博である。秦とは新海誠監督の劇場アニメーション『言の葉の庭』で、花澤がヒロイン役の声優、秦がエンディングテーマおよびイメージソングという関係ながら共演したことがあり、面識もあって、いつか秦に曲を書いてもらえたらいいねとスタッフと話していたそうだ。どこで読んだかわからなくなってしまったのだけれど、たしか以前にも花澤は秦の歌のファンだと話していたことがあったはずである。
「ざらざら」というタイトルについて、会場から出た「ざわ…ざわ…」という茶々に「『カイジ』じゃないよ」と笑って返しながら、心がざらついたときに、それにどうやって向き合っていくかがテーマだと話した。しっとりとしたバラードである。
「ざらざら」を披露したあと、再びカズーでの参加を促しての「Young Oh! Oh!」、コーラスを会場に任せての「Looking for your Smile」を演奏して、スペシャルライヴ「HAPPY HANAZAWEEEEN」は終演した。