宇多田ヒカルの新作『Fantôme』はハイレゾでどう聴こえる? 先行試聴会を詳細レポート

7.真夏の通り雨

 こちらは「花束を君に」と合わせて配信シングルとしてリリースされていた楽曲。テレビから流れてくる音源を一聴した段階では打ち込みベースの楽曲に感じたが、あらためてハイレゾ版で聴いてみると、生の楽器群がしっかりと個々の音を出していること、宇多田がそれらを自在に操り、トラックメイカー的な感覚でアレンジを行なっていることがハッキリとわかる。特に中盤以降に出てくる、玉田豊夢の3連バスドラムをサンプリング音源のように使った箇所は立体感が如実に表れている。

8.荒野の狼

 今作において、『DEEP RIVER』期の宇多田ヒカルがアップデートされて帰ってきたかのような感覚を覚える2曲のうちの1曲。無機質なクリック音と生のオーケストラサウンドに、宇多田の情熱的なボーカルが絡み合うサビは不思議な高揚感を覚える。ハイレゾ版ではBメロのウネウネと動くベースとボーカルが生み出す生々しい質感に気を付けながら聴いてもらいたい。

9.忘却 featuring KOHH

 今や世界の著名アーティストの作品にまで参加するようになった、ラッパー・KOHHをフィーチャリングアーティストとして迎え入れた楽曲。彼の独特なフロウがボディーブローのように効いてきたところに、宇多田の透明感あふれる歌声がよりクリアに聴こえるという、緊張と緩和を楽しむことができる1曲だ。ハイレゾ版で注目すべきポイントは、少し長めに作ってあるイントロ部分。立体的なサウンドが、先述した“緊張”をより高めてくれる。

10.人生最高の日

 先述した「『DEEP RIVER』期~」のもう1曲。サビの低音がメロディよりも前、ボーカルと同じくらいの位置でアピールしており、高音質の環境下で聴くと非常に心地よい。ハイレゾ版では、埋もれてこそいないものの、通常音源ではあくまで伴奏的に鳴っているBメロ~サビのギターカッティングがハッキリと聴こえ、より楽曲のキラキラ感が際立つ。

11.桜流し

 映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の主題歌であり、2012年にPaul Carterと共作曲として配信リリースされた楽曲。今作の中では一番バンド形態に近い編成の音作りがされており、Bメロ~サビでソリッドに鳴るギターや、2番Aメロ後の地鳴りのようなバスドラムなどは、ハイレゾ版だとより生々しさを帯びたように感じる。

 以上、簡単ではあるがそれぞれの楽曲について、ハイレゾ版ならではの感想を交えつつレポートしてみた。CDが店頭に並ぶのも目前となってきたが、同作はレコチョクの「プレイパス」制度の対象であり、CD購入者が手軽にスマートフォンで128kbpsか320kbpsのAAC音源をダウンロードすることも可能だ。筆者のようにハイレゾ版との聴き比べを楽しむのも面白いのではないだろうか。

(取材・文=中村拓海)

※記事初出し時、「プレイパス」についての文言に一部誤りがございました。訂正してお詫びいたします。

■参考リンク
レコチョク「宇多田ヒカルスペシャルページ」  
プレイパスについて
ハイレゾとは

関連記事