SALUが抱く、音楽シーンへの問題意識とその表現「売れることは大切だけど、全部を“仕方ない”で済ませたくない」

SALUが抱く、音楽シーンへの問題意識とその表現

ヒップホップシーンを盛り上げるために自分が出来ることはしたい

――次の曲では一転して、Nujabesを連想させる軽やかで美しいトラックが印象的な「Lily」へと繋がっていきます。水曜日のカンパネラ・kenmochiさんとのコラボ曲です。

SALU:Nujabesさんの“和”を感じさせる精神性みたいなところは、ちゃんと僕らの世代にも継承されているんだと思います。これはトラックが先で、聴いた瞬間に“百合の花”のイメージが湧いてきたので、そこから百合の花をモチーフにして等身大の気持ちを歌おうと考えたんです。kenmochiさんとは音楽のファイルのやりとりが多く、サビのメロも納得するまで練っていったので、ふたりで作りあげたという気持ちがすごく強いですね。

――次の「痛いの飛んでいけ -interlude-」はインタールードで、ごく短い一曲ですね。

SALU:この曲は特定のひとりの友人に向けて歌っているんですよ。特定の人に曲を書くというのは今まであまりしなかったのですがリスナーからは「自分に言われているのかと思った」って声が多くて、すごく不思議な感じがしました。もしかしたら、それは音楽における重要な要素の1つなのかもしれません。誰かひとりに伝えたい思いを音楽で表現することで、みんなが自分のこととして聴くことができるというか。

――「ビルカゼスイミングスクール feat. 中島美嘉」では、中島美嘉さんをフィーチャリングアーティストに迎えつつ、トラックメイカーにはMacka-Chinら、アンダーグラウンドの実力者たちが参加していて、いまの日本のヒップホップシーンの豊かさが堪能できました。

SALU:Macka-Chinさんは僕が中学生の時にヒップホップを聴き始めたころからずっと好きで、いつか一緒に出来たらいいなって思ってました。曲を作り始めた時は2人でやるつもりだったんですが、cro-magnonの皆さんが演奏してくれて、中島さんの歌が入って、それをさらにShingo Suzukiさんがアレンジしてくれて、結果的にとてもスケールの大きい楽曲になりました。サビの歌詞は中島さんに書いていただいたんですけれど、“天からの声”みたいにしてくださいと伝えたら、こんなに素晴らしく仕上げていただいて。いろんな人と一緒に作る、というコンセプトの上で、もっとも色彩に富んだ曲になったと感じています。

――中島さんの異なる一面も垣間見れる、素敵な一曲ですよね。さらに次の「タイムカプセル」は、スチャダラパー・SHINCOさんのトラックで。

SALU:何年か前にSHINCOさんと制作させてもらったものの、形にならなかった曲を今作のために改めて仕上げたんです。「All I Want feat. Salyu」ができてから、ようやくイメージが掴めた楽曲で、リリースまでにしばらく眠っていたという意味でも「タイムカプセル」ですし、リリックの内容的に、僕と同世代の人間にはなつかしく思ってもらえるんじゃないかな。あと、フロウはBOSEさんのオマージュをしてみたんですけれど、やってみて、BOSEさんのフロウは普遍性を持ったものなんだと感じました。いつ聴いてもフレッシュさがあるんですよね。いろんな意味での「タイムカプセル」になりました。

――続いての「In My Face」は、Ovallのmabanuaさんのトラックです。ポップに洗練された極上のトラックに、シンプルなメッセージが効いています。

SALU:mabanuaさんは、kenmochiさんと同じくらいやりとりが多くて、しかも直接メールでやりとりをしたので、より近い距離感で制作できた印象です。この曲には「Smile In My Face」っていう慣用句が出てくるんですけど、「いつも笑顔でいてね」って意味なんですね。だけど、誰かに向かって笑顔を押し売りしてもしょうがないから、普段生活していく中で笑顔を忘れずに生きていきたいという気持ちを歌っているんです。割と自分に向かって言っている感じで。

――最後の「AFURI」はさらにパーソナルな表現で、SALUさんにとって思い入れのある厚木について歌っていますね。

SALU:そうですね。自分は札幌生まれなんで、生まれ故郷ってわけではないですけど、18歳からの10年間、青春時代の真っ只中を過ごした土地で、その空気に育まれた部分は大きいです。今まで厚木へのストレートな愛を歌った曲はなかったので、今回の明るいアルバムの最後に入れようと。地元愛を歌うのはヒップホップですし、これを聴いて「SALUは厚木なんだな」って思ってもらえたら嬉しいですね。

SALU / AFURI

――全曲についてお話を伺って、今回のアルバムにはいろんなミュージシャンが参加しつつも、SALUさんのパーソナルな部分を色濃く表現したものだと感じました。

SALU:今までよりもアンカットでローな感じを出してますね。思ったことをそのままの表現をしてることが多いかも。最近、日本のヒップホップシーンは多方面でまた盛り上がってきていて、それはすごく良いことだと思うんですけれど、一過性のブームで終わって欲しくはないと感じていて。いままでは、シーンへの貢献とか、あんまり口に出さないほうがスタイリッシュだと思っていたしそうなんですけど、やっぱりもっと盛り上がって欲しいという気持ちはあるし、そのために自分が出来ることはしたいです。

――SALUさんのそうした態度にも、日本のヒップホップの成熟を感じます。

SALU:最近は自分らしいスタイルのラッパーが増えたと思います。最近だと、JinmenusagiくんやKiano Jonesくん、YENTOWN、KANDYTOWNなど、トレンドを昇華した上で多彩な方が増えた印象です。僕自身、日本語で違和感なくラップをするにはどうすればいいのか、フロウについては相当悩みましたけれど、最近はあまり意識しなくても、ちゃんと日本語に聴こえる崩し方ができるようになったし、だからこそシンプルなフロウを心がけるようになりました。もちろん、まだ掘り下げられる部分はあると思いますが、僕は一旦そこから離れてみようと意識していて、だからこそ今回のアルバムが作れたのかなと。ただ、アーティストとしてずっと同じところにいることはできないので、このアルバムを通して、さらに次の挑戦に向かえたらと思っています。音楽を追求したい欲求はまだまだあるので、その気持ちに正直でいたいですね。

(取材・文=松田広宣)

■リリース情報
SALU『Good Morning』
発売:4月20日(水)
価格:¥2,700+税
<収録曲>
01.All I Want feat. Salyu (pro. Estra)
02.Tomorrowland (pro. tofubeats)
03.ハローダーリン (pro. SUI, take-c(underslowjams))
04.Mr. Reagan feat. 黒田卓也 (pro. JIGG)
05.How Beautiful (pro. Estra)
06.Nipponia Nippon (pro. KOYANMUSIC (SDJUNKSTA))
07.Lily (pro. kenmochi hidefumi(水曜日のカンパネラ))
08.痛いの飛んでいけ -interlude- (pro. Estra)
09.ビルカゼスイミングスクール feat. 中島美嘉 (pro. Macka-Chin, co-pro. Shingo Suzuki, music. cro-magnon)
10.タイムカプセル (pro. SHINCO(SDP))
11.In My Face (pro. mabanua)
12.AFURI (pro. Estra)

iTunes

■ライブ情報
『SALU LIVE TOUR 2016 ”Good Morning”』
日程:6月17日(金)
会場:大阪・Fan J Twice
開場/開演:19:00/19:30
チケット:¥4,500

日程:6月18日(土)
会場:渋谷 WWW
開場/開演:18:30/19:30
チケット:¥4,500

SALU オフィシャルサイト
SALU Twitter

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