私たちは客席でどう「映り込む」べきなのか? 兵庫慎司がライブ現場から考える

我々は客席でどう「映り込む」べきなのか

 ローリング・ストーンズの2回目の来日公演、1995年、東京ドームでのこと。ライブの途中、何度も客席の様子がビジョンに映し出されるわけだが、その途中に、突然、甲本ヒロトと真島昌利のふたりが大きく映し出されたのだ。当然、その瞬間、客席はドッと湧いた。ステージの上のメンバーたちは、なんで今のタイミングでわいたのか、わからなかっただろう。
 
 あのはっきりとした抜かれ方は、偶然ではなく、カメラマンがふたりに気づいて、しばらくその姿を追っていたのだと思う。で、カメラのスイッチングの担当者が、ここ!というタイミングでそのカメラに切り替えたのだ、おそらく。 

 しかし。ヒロトもマーシーも、そんなこと、なんにも気にしていなかった。カメラ目線にもならず、ステージから目もそらさず、ただただ「うわあ、ストーンズだ!」という喜びを全身から発して盛り上がっていた。特にヒロト、本当にいい顔をしていた。
 
 のちの時代に、PRIDEとかK-1とかの中継を観ていると、リングサイドの特等席に芸能人とかが、映される気満々で鎮座しているさまが抜かれるのを観るたびに、ああ、なんかヤだなあ、と思ったものだが、今思うとその対極だった、ヒロトもマーシーも。「有名人だからこう映りたい」という自意識もない、EDMのお客さんのように場に合わせたスマートさを見せるわけでもない、ただのストーンズに夢中なロック兄ちゃんだった。
 
 それ、ブルーハーツの解散発表の直前ぐらいの時期にあたるわけだが、その姿はまさにファースト・アルバム収録の「ダンス・ナンバー」の「カッコ悪くたっていいよ そんな事問題じゃない」という歌詞、そのままだった。いや、べつにカッコ悪くはなかったですが。普通でしたが、動きとしては。ただ、熱くなることがカッコ悪いとされた80年代に現れ、めっちゃ熱いことをめっちゃダサい格好(だと当時は思った、ヒロトの坊主頭とか、河ちゃんの胸にでっかく★マークが入ったTシャツとか、梶くんのもっさりしたモヒカンとか)で歌いまくって日本のロックの歴史を変えたバンドのメンバーならではだよなあ、あのふるまいは……と、改めて考えたりもした。

 僕が自然に「映り込める」時は来るのだろうか。

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。1991年に株式会社ロッキング・オンに入社、音楽雑誌などの編集やライティングに携わる。2015年4月に退社、フリーに。「リアルサウンド」「RO69」「ROCKIN’ON JAPAN」「SPA!」「CREA」などに寄稿中。9割のテキストを手がけたフラワーカンパニーズのヒストリーブック『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライブにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。( http://www.rittor-music.co.jp/books/14313007.html

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