レジーのチャート一刀両断!
BABYMETAL、三代目JSB、清水翔太…最新チャートに「シーンの多様化」を見た
参考:2016年03月28日~2016年04月03日のCDシングル週間ランキング(2016年04月11日付)(ORICON STYLE)
海の向こうで空前のBABYMETALブームが到来!
BABYMETALのアルバム『METAL RESISTANCE』が英米のチャートを席巻している。アメリカではiTunesで総合アルバムチャート3位、Amazonでアルバムチャート1位。イギリスではiTunesで総合アルバムチャート3位。海外で結果を残しまくるその様子は、まるでサッカー日本代表がワールドカップで勝ち上がっているかのような高揚感を我々に与えてくれる。
そのBABYMETAL、日本のオリコンチャートでは2位(2014年2月リリースの前作『BABYMETAL』は4位が最高位)。世界的な人気者を抑えて1位となったのは、三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE(以下3JSB)の『THE JSB LEGACY』である。1週間で47.6万枚を売り上げてこの時点での「年間暫定1位」に躍り出るとともに、4作連続の1位を記録した。先月にはGENERATIONS from EXILE TRIBE『SPEEDSTER』もデビュー作から3作連続での1位を獲得しており、「EXILE一族」を名乗るこの集団のオリコンチャートでの強さは48グループやジャニーズ事務所にもひけをとらないものとして定着してきた。
さて、今回取り上げるのは10位にランクインした清水翔太『PROUD』。彼の約2年ぶりとなるオリジナルアルバムは、彼のルーツでもあるオーセンティックな黒人音楽とメインストリームのJ-POPが海外のトレンドを触媒にしてうまく融合した意欲作となっている(「海外のトレンド」なんてものとは関係ないところで「究極のガラパゴス化」とでも言うべき進化を遂げたBABYMETALとは対照的な作品と言えるかもしれない)。アルバムの冒頭を飾るゴスペル調の「Feel Good」や先行シングル「花束のかわりにメロディーを」では彼のボーカルが前面に押し出されているが、一方で「PROUD」や「Damage」ではオートチューンも活用しながらダブステップ以降のダンスミュージックとも共振してみせる。また、ファンキーなビートを自在に乗りこなしながら流麗なボーカルと抑えの効いたラップのギャップが楽しめるアップテンポのナンバー「Good Conversation」、歌い上げるのではなく淡々としたボーカルで哀愁を漂わせる「thinking bout you」「MONEY feat.青山テルマ,SALU」など表現のレンジもかなり広い。「歌のうまいシンガー」という枠にとどまらない、音楽家としての充実を示すアルバムである。
J-POPのフィールドにおいて、「ブラックミュージック感のある本格的な男性シンガー」という存在は常に時代から必要とされる。90年代の久保田利伸、ゼロ年代前半の平井堅、CHEMISTRY、ゴスペラーズと数々のスターを生んできたこのポジションだが、現状のヒットチャートにおいてこの席に座っているのは誰だろうと考えると……実は件の「EXILE一族」なのではないかという気がしてくる。3JSBも『THE JSB LEGACY』では「Summer Madness」のようなEDMだけでなく「Dream Girl」のようなスイング感が気持ちいいR&Bナンバーを聴かせているし、EXILE ATSUSHI(そもそも彼もCHEMISTRYの「候補者」の一人だった)も今年は5大ドームツアーが予定されているなどシンガーとしての地位を確固たるものにしつつある。あらゆる領域で覇権を築こうとするこの一族の浸食力は本当に恐るべきものだが、「シーンの多様化」という観点で考えると彼らの息のかかっていないシンガーがちゃんと売れている方が面白い。元来の武器であるのびやかなボーカルに加えて最新鋭のサウンドという新たな強みをまとった清水翔太が、一極化が進む男性のJ-POPシーンにおいてどんな立ち位置を形成していくのか非常に楽しみである。
■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。