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いきものがかりの楽曲における“余白”の重要性 シンプルかつ耳に残るフレーズを分析

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 続いて、彼らの18枚目のシングル「ありがとう」(作詞・作曲:水野良樹)。『ゲゲゲの女房』の主題歌に起用され、彼らがお茶の間に広く知れわたるキッカケとなった曲のひとつだ。キーは「C」で、この曲もサビ始まり。コード進行は「C – EonB/E7 – Am7 – Gm7/C7 – Bm7-5/E7 – Am7/D7 – Dm7 – Fm6/FonG – C – G7」。2小節目の「EonB/E7」は、続く「Am7」のセカンダリードミナントコード。4小節目の「Gm」は、奥田民生やスガシカオの曲にも多用されていたドミナントマイナーで、次の「C7」とペアでツーファイブ(IIm – V7)を作っているようにも、トニックコードCへ戻ったようにも聴こえる。さらに5小節目の「Bm7-5/E7」は、続く「Am7」に解決するツーファイブで、その「Am7」も次の「D7」とペアでツーファイブを作っている。いわゆる「循環コード」だ。その上でメロディは、やはりテンションノートを用いず和音の構成ノートで作られている。しかも、出だしの“ありがとう~”という部分は“ドレミファソ~”と1音ずつストレートに上昇。この強烈なインパクトが高揚感を生み、一度聴いたら忘れられない印象を残すのである。

 『ロンドンオリンピック・パラリンピック』のNHK放送テーマソング「風が吹いている」(作詞・作曲:水野良樹)も、サビ始まりの曲。キーは「E」で、コード進行は「E – G#m7 – C#m7 – Bm/E – A/B – G#m7/C#m7 – F#m7 – Bsus4/B7」。ダイアトニックコードによるシンプルな流れだが、4小節目で「ありがとう」のサビ4小節目と全く同じ役割のドミナントマイナーが登場する。ここはメロディが“シ=B”なので、普通にトニックコードEでも問題ないのだが、そこに「Bm」を差し込むことで、聴き手のハートをわしづかみにする。そして、ここでもやはり、メロディはコードの構成音のみというシンプルなものだ。

 さて、最後に『超いきものばかり』に収録された新曲3曲の中から、「翼」(作詞・作曲:山下穂尊)を聴いてみたい。ミディアムテンポの軽快な曲で、抑揚を抑えて流れるように進んでいくメロディは、確かに吉岡の言うように「一筆書き」的で、「スルスルっと」体に入ってくるようだ。キーは「F」でサビ始まり。コード進行は「F- Dm – B♭ – C – F – Dm – B♭ – C – C」と、まさにシンプル・イズ・ベスト。Aメロは「F/B♭ – C/F – Dm/Am – G/C」で、Bメロは「Am/Dm – Gm/C – A7/Dm – Gm – G – C – C」。Bメロの3小節目で「A7」という「Dm」に対するセカンダリードミナントコードと、5小節目で「G」という「C」に対するセカンダリードミナントコードが出てくるだけで、あとは清々しいほどにストレートだ。ビートルズに例えるなら、コードにヒネリを加えて抑揚のあるメロを乗せる水野がポール・マッカートニー、時おりハッとするコードを差し込みつつも、感覚的にパパッと作ってしまう(ように聞こえる)山下がジョン・レノンというところか。

 ちなみに、吉岡が作る曲(本作でいえば「キミがいる」「東京」、水野との共作「涙がきえるなら」)は、抑揚のつけ方など、水野に作風は近いが、意識的にせよ無意識にせよ、自分の声がもっともよく響く帯域を「ここぞ」というところで上手く使っている印象だ。そこはやはり、ボーカリストならではの作り方という気がする。

 三者三様の作風を内包しながら、それを吉岡という稀代のボーカリストが歌うことによって「いきものがかり印」とでもいうべきカラーを作り上げてきた3人。聴き手が感情移入しやすい“余白”を絶妙なバランスで配置しつつ、今後も国民的グループとして名曲を作り続けてくれるはずだ。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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