マキタスポーツがV系バンドで体現する『矛と盾』とは? 矢野利裕が作品の“たくらみ”を読む

 それにしても、ダークネス様はときどき、不思議な目をする。それは、「ドーランの下に涙の喜劇人」といった具合の、化粧の奥にある素顔の目ではない。ダークネス様のあの目は、本当の本音の本心すらも企画になってしまうという「芸人は人間じゃない」(マキタスポーツ)という性質による。それなりに実体験に基づいているだろう「普通の生活」の歌詞内容すら、人前で歌ってしまった瞬間に芸能の一部になってしまうという冷静さ。どころか、芸能として嘘の共有を目指しているうちに、その嘘の振る舞いこそが、自分にとっての本当だと感じられる情熱。「約束」の曲のなかで、ダークネス様は「俺がする約束はただひとつ/それはお前らを愛すること」と熱っぽく言うが、その愛がなにかと言えば、「愛は猿さ」とシャレのようにかわす。嘘と誠が、冷静と情熱が、相反する感情が入り混じる瞬間、ダークネス様の目はとても不思議なものとして映る。マキタスポーツはかつて、天真爛漫でナチュラル・ボーンなボケ気質な目を「星目」と名づけ、反対に、分析的で批評的なツッコミ気質な目を「石目」と名づけた。だとすれば、ダークネス様のあの目は、「星目」と「石目」が入り混じった、「ダーク・スター」の目なのかもしれない。「石目」を貫くことで「星目」と化すこと。完全無欠な「星目」のなかに「石目」を抱えること。「ダーク・スター」の目は、光っているのか光っていないのか。相反する「矛と盾」はここにもあった。

 これは余談だが、『矛と盾』が発売される10日前に亡くなったデヴィッド・ボウイは、遺作となったタイトルを『ブラック・スター』と名づけていた。このことは、もちろん偶然に過ぎないのだが、この事実はなかなか重く感じる。デヴィッド・ボウイこそは、ヴィジュアル系に影響を与えた存在でもあった。実際、マキタスポーツ自身も『大谷ノブ彦 キキマス!』(ニッポン放送)の番組中、Fly or Dieの活動がデヴィッド・ボウイを意識していた、ということを話していた。本作ははからずも、最後まで嘘と本当が入り混じったように生き、「矛盾」を抱えながらも表現をしていたボウイへの、遠い場所からの追悼のように聴こえてもくる。

■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。

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