『第4回アイドル楽曲大賞2015』アフタートーク(後編)
「ライブに依存しないアイドル」がシーンを変える? 評論家4氏が予測する2016年のアイドル界
彗星の如く現れて、フェスを荒らしていくような存在を今年も見たい(ガリバー)
――ここまで語られていませんが、メジャー部門の1位と2位がNegiccoであるのと同時に、インディーズ部門の3位がRYUTistで、地方アイドル勢、とくに新潟勢が強かった印象です。
ガリバー:2016年はここにメジャー部門でNGT48が絶対に入ってくると思うんです。だから、地方アイドルとして面白いエリアは新潟一強といえますね。ほかにもインディーズ部門の下位に新潟ローカルの良いアイドルグループが入っているので、来年以降はさらにその勢力を拡大するのではないでしょうか。
――最後に、2016年はどういう楽曲が来ると思いますか?
岡島:sora tob sakana、里咲りさ、原宿駅前パーティーズに個人的には注目しています。あとはサクライケンタさんの勢いが止まらないような気がします。メジャー部門で8位を獲得した吉田凜音と蒼波純のユニット・ずんねは、作詞・作曲に大森靖子、編曲にサクライケンタがクレジットされている名曲です。あと、ブクガ(Maison book girl)はインディーズの17位、18位に入ってて、アルバム部門でも『bath room』が入っている。サクライさんの音楽の記名性の高さはすごくて、何を聴いても「これはサクライさん楽曲!」とわかるくらいです。2016年はさらに多くの良曲を生み出してくれるのではないでしょうか。
ピロスエ:ローティーンの少女に際どい歌詞世界を歌わせて高い完成度のポップ・ミュージックに結実しているという意味では、東京女子流の「Partition Love」以来だと思いましたね。2016年に存在感が上がってきそうなのは、生ハムと焼うどん、それと原宿駅前パーティーズかな。
ガリバー:原駅ステージAはドラマの主題歌も決定しましたし、何かしらの形でリリースの動きも生まれてくるでしょう。2016年は原宿駅前パーティーズがどうかき乱してくれるのか、すごく楽しみですね。今後は原宿をベースにしながら、外での活動も見られるでしょうし。あと、個人的にはネクストしゅかしゅん(大阪☆春夏秋冬)の登場を期待しています。2015年初頭の段階では彼女たちの快進撃を誰も予想できていなかったし、彗星の如く現れて、フェスを荒らしていくような存在を今年も見てみたい。
宗像:今年の楽曲大賞では、個人的に6位に上げていた僕とジョルジュの楽曲がインディーズ部門で220位という結果に驚きました。アイドル楽曲大賞にはもっと、レコードディガーみたいな若者が現れてほしい。そして、「俺のセンスが何より正しくて、お前らのセンスはゴミだ!」と声を大にして言ってもいいと思うし、ブログにマーキータグを使って書いたり、ピカピカしてるGIFアニメーションで「俺の楽曲大賞」を表現するような奴はもっと出てくるべき。
岡島:「俺の楽曲大賞」的な動きは徐々に増えてきましたよね。雑誌や個人ブログなど、他方への広がりを感じました。
宗像:ほかにも、Tパレを抜くとランキングが薄くなるという現象はすごく重要な問題だと感じていて。たとえば、僕がメンズサイゾーの連載(『今年はまだいい夢を見ていられた ~2015年アイドルポップスベスト10まとめ~』)で22曲挙げた中に、メジャーのものって2曲しかないんですよ。2015年ってメジャーに対してあまり面白いと思える楽曲がなかったんですね。僕が面白いと思ってチェックしているディレクターさんって、メジャーレーベルに何人かいるのですが、2015年はそういう人たちをチェックすれば、大体済むというくらい収穫がなかった。そのなかでずんねや清 竜人25は音楽的な刺激をくれましたね。2016年は、メジャーのアイドル楽曲にもっと攻めがほしい。僕が信じてる複数のディレクターだけでもいいので、頑張ってもらいたいです。
岡島:僕も全く同感です。メジャーとインディーズの順位を考えた時に、メジャーでいいなと思ったのが8曲ぐらいしかなくて、それに比べてインディーズは20~30曲あって。個人的には2015年はアイドルの音楽よりも、ルックスの可愛い新人アーティストの女の子の音楽の方が面白かった。今ってアイドルと名乗った方が儲かるし注目もされやすい時代なのに、ルックスがいいにも関わらず、それでもアイドルと名乗らずにアーティストとわざわざ宣言して活動してるわけだから、そこに強いこだわりがあるわけじゃないですか。アイドルオタクとしては、むしろそんな子を無理矢理アイドル視することにこそ、アイドルオタク的快楽を感じます。…とまあ、それは置いといて、昔だったらアーティストに憧れてミュージシャン活動をしてたような人が、今はどんどんアイドルやアイドル運営サイドになってるじゃないですか。それによって、シーンにおける「アイドル楽曲だからこその音楽的な刺激」が薄くなっている気がします。せっかく「アイドル」という定義が曖昧なジャンルに飛び込むのであれば、もっと刺激的なものを作ってもいいと思うんですよね。もっとめちゃくちゃできるはずなのになあ、と。
ガリバー:その刺激のひとつに“これまで導入されてこなかったジャンル”というものは含まれると思うのですが、もうある程度出尽くしたような……。これ以上アイドルと組み合わせられる音楽ジャンルってあるんですか?
宗像:まだまだありますよ。NATURE DANGER GANGみたいなベースミュージックや、ジューク・フットワークのように、ダンスミュージックはどんどん新しいジャンルが生まれてきているので。あとは、デジタル・クンビアをやるアイドルでもいいと思うんです。今年2015年一番変な曲だと思ったのが、おやすみホログラムの「揺れた」って曲なんですけど、これがアルメニアのピアニスト・ティグラン・ハマシアンに影響を受けた曲らしくて。日本のアイドルは低迷すると和風に走りがちなんですが、そこへ逃げずにワールドミュージック的なアプローチをして上手くいったのはこの曲だけではないでしょうか。その曲をBiS、BiSHの楽曲をプロデュースする松隈ケンタさんも絶賛したのも、すごく面白いなと思った。
ガリバー:そういう意味ではSTEREO JAPANがEDMを持ち込んで成功したことがシーンにとっても大きいんですね。
岡島:楽曲を含め、変な動きをするアイドルがもっと出てきてもいいのかもしれません。曲もやり尽くされてはいないものの、ライブで盛り上がれるジャンルはある程度消化されてしまっているわけで、だからこそライブに依存しないアイドルがもっと生まれてくれば、シーンの様相は変わっていく気がします。そのほうが在宅派にも優しいですからね。
(取材=中村拓海/構成=渡辺彰浩)
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