2015年の『紅白歌合戦』は音楽をどう届けたか? 太田省一が番組の演出を振り返る

 年末の風物詩ともいえる『NHK紅白歌合戦』(NHK系)が2015年12月31日に放送された。「ザッツ、日本!ザッツ、紅白!」をテーマに掲げた今回は、『妖怪ウォッチ』や『鉄腕アトム』などとコラボした「アニメ紅白」や、ディズニーのキャラクターの出演、嵐が映画『スター・ウォーズ』の扮装で登場するといった豪華な演出が目白押し。視聴率は関東地区で第1部(19時15分~)が34.8%、第2部(21時~)が39.2%(ビデオリサーチ調べ)で、2部制となった平成元年以降では最も低い数字だったものの、幅広い世代に届けようとする演出上のトライアルが多数見られた『紅白』だったのではないだろうか。

 今回の『紅白』は、番組史においてどう位置づけられるのか。『社会は笑う・増補版』『紅白歌合戦と日本人』の著者である太田省一氏は「松田聖子や近藤真彦のトリ起用などにより、40代から50代向けの演出が目立った」としたうえで、番組の新たな試みをこう振り返る。

「今回の『紅白』を見ていて感じたのは、これまで“今年誰が人気で、何がヒットしたか”ということを確認する場としてあった同番組が、ふだん接しないタイプのアーティストや音楽など“知らないものに出会う場”としての性格がより強くなったということです。その背景には、昔と比べてゴールデンの歌番組が減ったことや、現在放送されている音楽番組も番組によって出演歌手のジャンルが限られているということがあり、『紅白』が現在の多様な音楽シーン全般に目配りした番組であることを際立たせる結果となりました。今回のその象徴ともいうべき小林幸子の『千本桜』は、ニコニコ動画と同じフォントで、画面いっぱいに“弾幕”が流れるという粋な演出をみせ、『おもいで酒』などを歌っている姿しか知らない人たちに強烈なインパクトを与えたのではないでしょうか」

 番組の“多様性”は出演歌手に限らず、その視聴方法などにもあらわれていたと太田氏は言う。

「バナナマンと久保田祐佳アナウンサーがMCを務めた副音声番組の『ウラトーク』には、事前番組の『ザッツ! 紅白宣伝部』で告知したとおり、T.M.Revolutionの西川貴教が本編に出演しないのにも関わらず登場し、激しいパフォーマンスでTwitter社の『一番反響のあった歌手ランキング』の1位にランクインしました。『ウラトーク』自体も主音声のタイトな進行とは違ったユルさがあったり、初出演となる乃木坂46や星野源らと交流のあるバナナマンならではの貴重な話を聞かせたりしてくれたのも印象的です。また、『ウラトーク』は今年からアプリでの視聴が可能になり、視聴者側としても『何を使って、どこで見るか』という選択肢の幅が広がったように思えます」

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