「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第22回 Have a Nice Day!『Dystopia Romance』リリースパーティー
東京のアンダーグラウンドとはどこだろう? Have a Nice Day!のリリースパーティー@LIQUIDROOMレポート
そして終盤で、10カ月ぶりに内藤がHave a Nice Day!のステージに立った。最初はなかなかステージに出てこず、出てきたと思えばサングラスをしている。しかし、次第にその動きはキレを増していき、ライブでの怪我で手術した靭帯は大丈夫なのかと心配になるほどだった。両腕を大きく広げたり、両腕を胸で交差させて祈るかのようなポーズをとる頃には、狂人の笑みをたたえた内藤に戻っていた。浅見北斗は内藤をハッピー・マンデーズのベズに例えていたが、内藤はさながら東京アンダーグラウンドの聖像のような存在だ。ただの中年男性のようなのに、ステージに立った瞬間、なぜか聖性を帯びてしまう不思議な人物なのだ。
しかし、内藤の登場時に浅見北斗が「一夜限り」という主旨の発言もしていた。40歳を過ぎた内藤がHave a Nice Day!で激しいパフォーマンスをするのが酷であることは想像に難くない。しかも手術後だ。とはいえ、久しぶりに登場した内藤は、意外なほど歌うパートが多く、内藤というパフォーマーの重要さと、彼を失っていたHave a Nice Day!の苦闘を改めて実感することにもなった。
最後はしつこく「Are You Ready (suck my dick)」と「フォーエバーヤング」。今夜3回目だったはずだが、それでもファンの大歓声とともに始まった。Traxmanがステージに上げられ、ステージの袖からもその日の全出演者が踊りながら現れた。最後は会場からの「内藤」コールとともにステージの幕は閉じられ、内藤は「楽しかったよー! バーカ!」と叫んで去っていった。
Have a Nice Day!の内藤の復活を予定調和と見る向きもあるだろうが、LIQUIDROOMという場での興業の成功のために、Have a Nice Day!が徹底的に退路を断ってきたことは評価すべきだろう。その先での“予定調和”だ。背水の陣で臨む覚悟がなければ、925人もの動員は、たとえドリンク代500円のみでもできなかっただろう。
なお、LIQUIDROOMでのHave a Nice Day!は、ここ2年の集大成的なショーとされていたので、彼らのライブにしては曲間が多かった。2015年10月28日に新宿LOFTでおやすみホログラム、ぱいぱいぱいチームと3マンライブをしたときの、ほぼノンストップによる40~50分ほどのロングセットが特に素晴らしかったことは特記しておきたい。Have a Nice Day!はその日ごとに異なるステージを披露しているのだから、私たちはまだまだ彼らを見るために東京のアンダーグラウンドへ踏み込む必要がある。
さて、話は振り出しに戻る。東京のアンダーグラウンドとはどこだろう? Have a Nice Day!の浅見北斗がたびたび口にする“東京のアンダーグラウンド”とは? 単に“東京のアンダーグラウンド”と言うならば、Have a Nice Day!がよく出演する新宿LOFTより狭いライブハウスはたくさんあるし、日の目を見ない連中も腐るほどいる。“東京のアンダーグラウンド”とは、Have a Nice Day!を中心とする“トライブ”だと考えたほうがいいだろう。LIQUIDROOMで共演したようなアーティストたちとのシーンだ。Have a Nice Day!は『Dystopia Romance』リリース・パーティーによって、そんなシーンを丸ごとオーバーグラウンドに引き上げてしまった。
「blood on the mosh pit」のMVで浅見北斗はこう語っていた。「不安や苦しみ、憎しみから生まれた音楽で、人は踊り、歌い、ときに感動し涙する。オレたちHave a Nice Day!のライブを支配する多幸感やモッシュピットは、オレの中の苦悩から生まれているのさ」。東京のアンダーグラウンドに通底音があるとしたら、おそらくこれがその正体なのだ。『Dystopia Romance』リリース・パーティーは、苦悩の果てに生み出された、突き抜けてピースフルなパーティーだった。でも気づいているだろう? Have a Nice Day!のライブハウス・シーンを刺激する毒性が、LIQUIDROOMを通過して、自信とともにさらに強まるであろうことを。挑発的にして攻撃的なHave a Nice Day!の姿勢に、ますますの拍車がかかることを楽しみにしたいのだ。フォーエバーヤング。
(撮影=Bean)
■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter