新アルバム『オーディション』インタビュー

ドレスコーズ志磨遼平が白いプラカードを持つ理由 「『なにも言わない』という意見を言いたくなった」

ドレスコーズ - スローガン(AUDITION VIDEO)

 ドレスコーズが10月21日に新アルバム『オーディション』をリリースした。同作ではボーカルの志磨遼平を中心に、ギタリストには沙田瑞紀(ねごと)、マーヤ(KING BROTHERS)、オカモトコウキ(OKAMOTO'S)、牛尾健太(おとぎ話)、會田茂一、近藤研二を、ベーシストには有島コレスケ(0.8秒と衝撃。、told、スズメーズ、BOYLY Entertainment)を、ドラムにはピエール中野(凛として時雨)を、キーボードには中村圭作、長谷川智樹を起用し、楽曲ごとに異なるメンバーで演奏。賑やかで開放的なバンドサウンドを展開し、ドレスコーズの新境地を示す作品に仕上がっている。2014年9月以降、実質的にボーカル・志磨遼平のソロ・プロジェクトとなったドレスコーズは、パーソナルな表現を追求したアルバム『1』以降、どのような心境の変化を経て今作の制作に臨んだのか。バンドが流動的な編成となった理由や、『オーディション』というタイトルに込めたコンセプト、客演のミュージシャンについてまで、志磨遼平に話を聞いた。

「“自分語りの作品”を立て続けに制作したいとは思わなかった」

――前作『1』は志磨さんのパーソナルな感覚が色濃く出た作品でしたが、今回リリースされる『オーディション』は、ソロ・アーティストが組織したバンド・サウンドという印象を受けました。

志磨:『1』のときは、それまで一緒にやっていたメンバーとバラバラに別れて一人になったものの、自分になにができるのか分からなかったし、どういう方向に進むかという具体的な展望もなかったんですよ。だけど、幸か不幸か、『1』の制作を通じて、今まで培ってきた自分なりの“メソッド”がたくさんあるということに気づいて、その時点での自分のすべてをちゃんと表現できました。それで、次にどういうライブをしようかと考えたときに、たとえば一人で弾き語りもできるだろうし、誰かのサポートを受けることもできだろうと思ったんです。実際、ツアーでは自分の古くからの友達に参加してもらったんですけど、これまで何百回とライブをしてきた中で、はじめて自分が納得できるものになりました。人と一緒に演奏することで、自分の音楽を客観視できるというか、距離をもって捉えることができたし、僕の曲を演奏するためだけにメンバーが力を貸してくれるというのは、ある意味では冷静さを伴うもので。逆に、ほかの誰かと「一緒に音楽活動をがんばろう」という感じで活動すると、すごく熱量が必要なんだけど、今回はそういう気負いがなかった。

――バンドを作るということは、共同体を作るということでもありますからね。

志磨:そういうことだと思います。自分たちがどれだけ信念を曲げずに他人と交われるか、というところまで考えてしまって、音楽の話だけで済まなくなってしまう。そういう意味で、今回のツアーはむしろ音楽的なステージだったという印象があって。それで、ツアーが終わった時点から、毎回のライブごとにメンバーを変えるという構想が浮かんできて、今回のアルバムもライブを手伝ってくれたメンバーと、一曲ごとにメンバーが代わるような流動的なイメージを持って作ってみようかと思ったんです。

――そのメンバーが、オカモトコウキさんや沙田瑞紀さんたちだったということですね。曲を作る段階でのスタンスも『1』のときとは違ったものになりましたか?

志磨:多分そうなっていると思うけれど、そのあたりは今でも不思議なんです。ライブでもそうなんですけど、誰かと一緒に演奏することは、自分で意識するところよりももっと深いところまで影響があるもので、はじめに意図していた部分は次第になくなっていきました。でも、「この曲のギターのパートはあのミュージシャンが合っているだろうし、こっちの曲のギターのパートはほかのミュージシャンに演奏してもらいたい」ということは考えながら作っていて。アルバムが完成した今になって思うと、まとまったテーマで曲を作るというやり方とは違って、無計画に手当たり次第、曲を作っていったような気がします。

――『1』のときのインタビューで志磨さんは、これまで「何者かになりたい」という憧れで表現していたのが、一人になって初めて「憧れ」ではない、自分の中から自然に出てくる音楽ができたと語っていました。今回のアルバムはその延長上にある部分と、新たに加わった部分がありますね。

志磨:自然に出てきた音楽ではあるんですけど、『1』のような、いわば“自分語りの作品”というものを立て続けに制作したいとは思いませんでしたね。いまになって考えると、僕は自分で何かを表現したいというより、むしろ、誰かときちんと交わってみたいという気持ちが強いんだと思う。スタジオ・ミュージシャンの方にお金を払って、こちらが理想とする音楽を演奏してもらうというよりは、友達や僕が好きなバンドのメンバーと一緒に、お互いにアイデアや希望を出しあいながら曲を作っていきたいんですよ。そこでは、いろいろと意見のぶつかり合いもあるかもしれないけれど、完成してからみんなで喜びを分かち合いたいという気持ちの方が大きかった。つまり、僕がやりたかったのは単に音楽を作るというより、人との係わり合いを深めたいということだったかもしれない。たとえて言えば、「一緒に酒を飲もうぜ!」という言葉のかわりに、「一緒にスタジオに入って音楽を作ろうぜ!」という感じかな。

――『オーディション』というアルバムタイトルも、その点で象徴的ですね。

志磨:アルバム制作の本当に最後の段階で、ようやく『オーディション』というタイトルに決まったんです。それまでは、収録予定の曲は決まっていて漠然とした一貫性のようなものは感じていたんだけど、それをどんな言葉で表せばいいのかが分らないような状態でしたね。それで、ぎりぎりになって、ようやく“選ぶ”ということについて歌いたいということに気がついたんです。一緒にレコーディングに加わってくれたメンバーたちも、はたから見たら僕が“選んだ”ように見えるだろうし、制作当時はテレビなどから感じる時代のムードも、“選択の時代”という印象で。そこで『オーディション』という言葉なら、それらすべてを言い表すことができるんじゃないかと思ったんです。

「小さな声で話さなければいけない内容のほうが、音楽との相性がいい」

――いまは政治の季節ともいえる状況で、たしかに“選択の時代”なのかもしれません。そうした時代性に対する志磨さんのスタンスは、〈“ふたつにひとつ“くらべるなら どうせその程度だ、それは!〉と歌う「スローガン」という曲に、端的に表現されているのでは。

志磨:基本的に僕は、小さな声で話さなければいけない内容のほうが、音楽との相性がいいと考えていて。大きな声で誰かが主張するようなことに対して、みんなも賛同するようなやり取りがなされているなかで、隣の人とこそこそと小声で自分の考えを言い合っているようなことのほうが、歌として作りやすいと思うし、そのほうが好きなんです。少し前までは、「実は日本は危ないんじゃないか」と話すことが、小声で囁かれていたと思います。でも、最近は逆に「賛成!」とか「反対!」とか「不安だ!」ということを、大きな声で主張することが多いように感じていて。そういう中で「どっちの考えも理解できるよね」とか「僕は、どっちの考えも理解できないんだよね」という意見もあるはずだし、自分はそういうことをテーマに歌いたいと思いました。

――それは今回のアルバム全体のテーマということでしょうか。

志磨:それが僕の気持ちだということだと思う。たとえば今はSNSという手段で、みんなが発言権を持っていますし、「賛成」や「反対」とか「これは嫌だ」という自分の気持ちを、誰でも公に向けて発言することが可能になりました。でも、僕の場合は“無記名投票”のように、真っ白なプラカードを持っているというイメージがしっくりきたんです。そもそも「音楽って、なにか自分の考えを言わなければいけないものなのか」という疑問もあったし、特に『1』は自分の感情の発露だったので、余計に「なにも言わない」という意見を言いたくなったというか。ジャケットのフリップには、最初はなにかメッセージを書こうかとも思っていたんですけど、むしろ何も書かないという方法をとるのが、今やるべきことだと気が付いたんです。

――なるほど。

志磨:だからこそ、内容的にはごく個人的な問題を歌っていますね。自分の気持ちを歌うということは、とても繊細で複雑な過程でできるものだし。すべてラブソングのような気持ちで歌っています。

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