黒田隆憲がセカオワ楽曲の特徴を分析

SEKAI NO OWARIの楽曲はどう変化してきた? ソングライティングのあり方から読み解く

 メロディも、いわゆるテンションノートなどは極力使わず、コードの構成音によって成り立つシンプルなものが多い。しかも、ランダムに飛び回るというよりは、階段を駆け上がるような旋律を好んで用いているため(「スノーマジックファンタジー」がわかりやすい)、聴き手に高揚感をもたらす効果を上げている。Fukaseは作曲方法について、「自転車に乗っている時に思い浮かぶことが多い」「お気に入りのコースを周っているうちに曲が完成する」と語っていたことがある。技巧的な作り方をせず、思い浮かぶままにメロディを紡ぐことにより、彼の中に染み込んだ様々なポップミュージックの引き出しが、自然に開かれているのだろう。

 また『Tree』以降の彼らは、まるでディズニー音楽を彷彿とさせるような、ファンタジックでドリーミーな世界観が持ち味となっている。これは、Fukaseとともに多くの楽曲で作詞作曲を務めるSaoriの存在によるところが大きいはずだ。高校、大学と音大に通い、音楽科の教員免許を持つ彼女による、音楽的素養に裏打ちされたシンフォニックなアレンジメント、音世界と密接にリンクしたライヴの舞台演出。それらが渾然一体となり、唯一無二のセカオワ的世界を構築しているのである。

 そして、今年リリースされた「ANTI-HERO」と「SOS」。特に驚かされたのがNakajin作曲の「ANTI-HERO」で、コードは基本的に<Fm D♭ C Fm A♭ B♭>の繰り返し。ラップ調のメロディは、サビでもグッと抑揚が抑えられたままだ。ここにはカノンコードも、駆け上がるようなメロディもない。ブレイクビーツ、ウッドベース、6連のテーマを奏でるピアノ、そしてカウンターメロを弾くギターが、メロディと“等価値”で鳴らされている。Jポップの世界ではイビツともいえる、この曲のミックスバランスも“洋楽っぽい”と感じる大きな要因だろう。 こうした方向へと多く舵を切ったのは、13年のアリーナツアー以降Fukaseに代わってリーダーを務めることとなった、Nakajinの影響力が大きいはずだ。

 続く「SOS」はFukase作曲。ミックスバランスは「ANTI-HERO」同様に“洋楽的”だが、サビが<G - DonF# - Em - Bm - C - G - C - D>となっており、2番目のコードを分数コードにしたFukase得意のカノン進行である。ただしメロディの抑揚は控えめで、これまでのセカオワが持っていたファンタジックな高揚感とはまた違う、心にじんわりと染み渡るような世界観へと移行しているようだ。

 ポップスの黄金律をてらいなく駆使するFukaseと、ファンタジックでドリーミーな世界観を構築するSaori、洋楽的な手法を大胆に取り入れるNakajin。そんな三者三様のコンポーザーを抱えたセカオワは、海外のクリエーターたちとタッグを組むことによって、さらなる深みへと進んでいる。今後、彼らの音楽がどのように変化していくのか、ますます目が離せない。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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