3rdアルバム『Bremen』インタビュー
米津玄師が希求する“普遍的な音楽”とは?「『愛している』という表現を恐れてはいけないと考えた」
「『愛している』などの言葉は、ちゃんと口に出して表現する必要がある」
ーー続いて、歌詞に関してうかがいます。米津さんは言葉の使い方が明確で、今作の歌詞には良い意味で「曖昧さ」がないですね。書かれている言葉を読めば、誰もがその物語内容を理解できるのが特徴であると思います。
米津:ちゃんと言葉にすると言いますか、言わなくてもすむことを敢えて言うということを恐れずにやろう、というひとつのテーマが自分の中にありましたね。『アイネクライネ』(『YANKEE』に収録)のときには、男と女の恋愛をテーマにした歌だとしても、歌詞の中に「愛している」などの言葉を一切使わずに“歪曲的”に愛情表現をするにはどうしたらいいのだろうということを考えました。今回の作品はそこから一歩突っ込んで、きちんと「愛している」という表現を使う必要があるとも考えましたし、それを恐れてもいけないということも考えました。
いろいろなレトリックを使って曲を作ってきた人間として、高度にひねくり回して作りたいという自分のエゴもあるんですが、自分の文脈と知識は、他の人も同じではないという考えに基づけば、それはしてはいけないことだと今回は思いました。「愛している」などの言葉は、ちゃんと口に出して表現する必要があるんだということです。
ーータイトルの「Bremen」は「ブレーメンの音楽隊」を想像しますが、改めてこのタイトルにしたきっかけを教えてください。
米津:「ウィルオウィスプ」を作っていたときに「ブレーメンの音楽隊」のエッセンスを取り込もうと思ったのがきっかけです。最初にこのアルバムを作ろうと思ったときに、廃墟になった街の中の使われなくなった高速道路を、いろいろな生き物たちが奥のほうに見える町の光を背にして闇に向かって進んでいく、というイメージがありました。そのイメージが「ブレーメンの音楽隊」とすごくリンクするという感じなんですね。
ーー「ブレーメンの音楽隊」の物語では、動物たちがブレーメンには行き着けなかったように、アルバムの中の「ホープランド」でも架空の理想郷が設定されていて、みんなが辿り着くことはできないんですね。この社会とか世界から抜け出ようとする意思があるものの、最終的にはそれができない、という意味を含んでいるのかなと感じましたが、いかがでしょうか。
米津:理想郷というのは実際にはあるわけないですからね。いろいろなものに折り合いをつけて生きていかなければいけないですし、自分の意思や理想が100パーセント尊重されるような空間もありえないです。妥協の中にどれだけ自分の意思を反映するのかというバランスをとりながら、生きていかなくてはいけないとも思います。
「ホープランド」では、〈ここにおいでよ〉と明確な歌詞で歌っていますが、では、“ここ”ってどこなんだということを問いかける自分自身もいます。心の拠りどころとして精神的に機能する場所としての“ここ”ならば良いのですが、実際の空間として存在するわけではなくて、救いを求める人間に対して食べ物とかを与えるようなことは絶対にできないですよね。だから「ホープランド」などの曲を作っているときに、聴いてくれる人を精神的な空間に閉じ込めてしまうのではないか、という危惧が曲目の順番を考えているときに生まれました。それで「ホープランド」のあとに来る曲の必要性を感じて、最後にできた曲が「Blue Jasmine」なんです。
ーー「Blue Jasmine」は先ほどのお話にもあった「愛している」というフレーズを真正面から歌った曲でもあります。
米津:自分の半径5メートル以内にあるものを100パーセント愛するような、能動的な働きかけをするような曲で終わる必要性があったんです。