坂本真綾が20周年記念盤で見せた音楽的充実 土佐有明が歌声の求心力を紐解く
渋谷系の要人がこぞってサポートする花澤香菜や、筒美京平が楽曲を書いた竹達彩奈、矢野博康がプロデュースする牧野由依、クラムボンの面々がバックアップした豊崎愛生など、昨今、ポップス系の作家が声優に曲を提供するケースが目立ってきている。そして、こうした流れの先駆者的存在と言っていいのが坂本真綾だ。声優として活躍する一方、菅野よう子のプロデュースで4枚のアルバムをリリースし、その後も鈴木祥子をはじめとする名だたる作家たちの曲を歌ってきた。かと思えば、前作『シンガー・ソングライター』ではなんとすべての作詞・作曲を自ら手掛けており、その瑞々しさと完成度の高さに多くの人が驚いたものだった。そんな彼女が今年音楽活動20周年を迎え、アルバム『FOLLOW ME UP』をリリースしたのだが、これがまたとんでもない傑作に仕上がっている。
気になる作家陣だが、岩里祐穂、菅野よう子、北川勝利、鈴木祥子など、これまで彼女と縁のあった作家がこぞって参加している一方、坂本慎太郎、小山田圭吾、大貫妙子、the band apartなど新たな顔ぶれも見られ、かつ坂本自身も3曲を作曲している。つまり、これまでのキャリアを総括するような“全部入り”な作品で、最初から最後までクライマックスが続くような濃密な空気が支配している。コーネリアスこと小山田圭吾が作曲、坂本慎太郎が作詞した「東京 寒い」は明らかに新機軸だし、同じく坂本慎太郎が作詞した「かすかなメロディ」は作曲がさかいゆうという異色のタッグが実現した。大貫妙子の「はじまりの海」は軽やかなポップスだが、坂本は以前大貫が在籍していたシュガーベイブの「DOWN TOWN」をカバーしていたから、その伏線が綺麗に回収された感もある。
さらに、作家同様に注目して欲しいのがプレイヤーのクレジットで、今の日本を代表する新旧の凄腕ミュージシャンが大挙して参加しているのだ。ざっと挙げていくと、キャラメル・ママ~ティン・パン・アレイの林立夫、aikoやオリジナル・ラブをサポートする佐野康夫、リトル・クリーチャーズの鈴木正人、元ジューシィ・フルーツでフリッパーズ・ギターのアルバムにも参加した沖山優司、桑田圭祐からモーニング娘。まで多くのレコーディングをこなす河村“カースケ”智康、KIRINJIの千ヶ崎学、元カーネーションの矢部浩志などなど。でしゃばりすぎることなく、それでいて自分のカラーをさりげなく曲に込める彼らのプレイは本作のひとつのハイライトと言っていい。もう、音の“鳴り”がぽっと出のミュージシャンとはまったく違うのだ。彼らの的確な仕事ぶりがアルバムに深い陰影を与えているのは間違いないだろう。