金子厚武のプレイヤー分析
Analogfishと新世代ポップバンドの接点とは? 新作アルバムの独自性を探る
また、「シティポップ感」という意味で重要なのは、下岡と並ぶもう一人のソングライターである佐々木健太郎の存在で、彼が昨年初頭に発表した初のソロ作『佐々木健太郎』は、山下達郎や大瀧詠一といった名前を彷彿とさせる部分を持った、素晴らしいポップスのアルバムであった。『Almost A Rainbow』においても、タイトルからして何ともらしい“Baby Soda Pop”で涼しげなメロディーラインを歌い上げているが、アレンジメントはAnimal Collective譲りのサイケなエレクトロニックサウンドになっているのがAnalogfishらしいところ。2人のソングライターが一枚の作品の中でしのぎを削りながらも、しっかりとした統一感を持って鳴らされているのは、彼らの作品の素晴らしいところだ。
そして、本作の独自性を語る上で外せないのが、斉藤のドラムである。音数を絞り、抑制を効かせたリズムパターンは、フィジカルでありながらも打ち込みのようなジャストな心地よさも併せ持ち、バンド独自のグルーヴを形成している。そもそも彼はThe Whoのキース・ムーン、Nirvana時代のデイヴ・グロール、Weezerのパトリック・ウィルソンといったロックドラマーをルーツに持ちつつ、Fatboy Slimの“Praise You”に魅せられ、そこから打ち込みと生の同居を意識するようになったという。前述した“平行”の頃は、まさに打ち込み的なイメージだったが、近年はまたフィジカルな方向に回帰しつつあり、そのプレイは非常に個性的。アルバムの曲で言うと、トライバルな匂いのする“F.I.T.”や、ホーンセクションを配した“今夜のヘッドライン”では、抑制の効いたリズムパターンでグルーヴを生み、一方、浮遊感のあるシーケンスが印象的な“No Rain(No Rainbow)”や、ジャジーな“Walls”の後半では、非常にパンキッシュなプレイも披露。このあたり、確かにキース・ムーンからの血を感じさせるのがユニークなところだ。
『荒野 / On the Wild Side』以降、メッセージ性の強い歌詞の印象が強かったAnalogfishだが、彼らは常に3ピースの可能性を追求し続け、音楽的にも独自の進化を遂げてきたバンドである。「シティポップ」という記号と共に、若手バンドが盛り上がりを見せる中、そことリンクをしつつ、その独創性においてはキャリアの差をはっきりと示してみせた『Almost A Rainbow』。今が彼らの音楽性を再評価する格好のタイミングであることは間違いない。
(文=金子厚武)