レベッカが“国産ロック”にもたらしたもの 市川哲史が再結成ライブから振り返る

 とまあウィキ的に書けばこんな感じになるのだろうが、私個人にとってレベッカとは音楽評論家人生の大きな転機となったバンドだったりする。実は。

 大学浪人時代のたしか1980年か、『ロッキングオン』誌への投稿から音楽評論を書き始めたと思う。死滅する脳細胞(失笑)。当時はYMOやプラスティックスなど、テクノ/ニューウェイヴ系のお洒落連動型ロックが日本でも芽生えてはいたものの、やっぱ基本というか世の趨勢は洋楽ロック。私のフィールドも当然洋楽で、リスナーもメディアもレーべルもそしてミュージシャン自身も、自覚のあるなしにかかわらず<洋楽コンプレックス>を抱えていた時代だったはずだ。

 たぶん1985年、私は名古屋で大学を卒業するとそのまま、市内の某広告代理店に就職した。教員採用の一次試験に合格してあとは二次の面接だけだったのに、受験し忘れやむなく代理店にコピーライターとして緊急入社したのだ。ところがそこは「金を稼ぐ苦労を知らずに制作ができるか!」と大時代的な熱血会社で、いきなり一年間の営業職を強いられる羽目になった。しかも新聞の求人広告を飛び込みで獲るという、1ヶ月で靴を履きつぶす不毛な武者修行だ。げろげろ。のちにプロの編集者になって初めてその不条理が活きるのだが、当時は営業に行くフリして流行り始めた漫画喫茶やらアパートで惰眠を貪る日々だった。

 ところが4月だったか5月だったか、名古屋の名所・テレビ塔の展望台で夜開催される日本の紅一点バンドとかの新曲発表イベントだかFMの公開録音だかに出席するよう、私は誰かにオファーされたらしい。わはは。それがレベッカだった。

 まったく興味も食指も動かぬまま超消極的な私に映ったレベッカは、正直とんでもなかった。NOKKOの超音波ヴォーカルと弾けんばかりの女子力には感心したものの、その新曲がよろしくない。なにせ3rdシングル「ラブイズCash」――イントロもメロもサウンドもノリもどこを聴いても、当時大流行マドンナの「マテリアル・ガール」に瓜二つだったのだから。

 よりにもよって全世界で2100万枚売った大ベストセラー・アルバム『ライク・ア・ヴァージン』からの全米2位シングルを、マリリン・モンロー主演『紳士はブロンドがお好き』の名場面を彷彿させるヴィデオクリップと共に日本でも大ヒットした楽曲を、あのナイル・ロジャース(g)+バーナード・エドワーズ(b)+トニー・トンプソン(ds)による<絵に描いたような流行最先端トラック>を、たった11ヶ月後に堂々とまんまやるとは。

 相変わらずの<洋楽コンプレックス>の裏返しっぷりに、「やっぱりな」と一気に興味を失った。と同時に、ヤードバーズの「トレイン・ケプト・ア・ローリン」を日本語詞にしただけのシーナ&ザ・ロケッツ1981年曲「レモンティー」(←そもそもの初犯は1975年のサンハウス)も想い出して、ある意味納得もした。負だけども。

 翌86年1月も中旬頃だったか、例によって私のアパートで営業廻りを一緒にサボっていた同僚が、「コレ観せてもらっていい?」と1本のベータビデオ(←死語)を床から拾った。翌々月後に発売予定のレベッカの渋公ライヴビデオのサンプルだ。どこから送付されたかすら思い出せないが、全7曲わずか計41分の映像を食い入るように見つめながら、「フレンズ」やら「GIRLS BRAVO!」やら「ラブイズCASH」やらをNOKKOと一緒にずっと口ずさむ彼の姿に、驚いた。

 80年代前半を「サーフィン・車・女子」の典型的な学生で過ごした<ごくごく一般人>な彼だけに、当然聴いてきた音楽はサザンオールスターズや山下達郎、ナイアガラあたりのオーディナリーな大学生ポップスだ。ところがそんな彼がレベッカを違和感なく当たり前に聴いている。そればかりかもう二度と戻らない絆をせつなさ全開で唄うNOKKOに、心底ぐっときているではないか。

「市川くん、マドンナもいいけどNOKKOもいいんだよ♡」。そうなんだ?

 どうやら私の知らないところで、日本語ロックがじわじわと侵食し始めていた。

 『ロッキングオンジャパン』が創刊されたのが86年9月だから、それまで日本のロックの新譜は洋楽誌である『ロッキングオン』で僅か2P、レヴューされるに過ぎなかった。でレベッカをテレビ塔で目撃した85年春、私はBOφWYの同名3rdアルバムの新譜評を、<矢沢永吉の系譜を継ぐヴォーカルが英国ニューウェイヴ風歌謡を唄うのだから、売れないわけがない。「暴威」より全然いい>と書いた。実際に売れたし、ここから《BOφWY伝説》が始まるわけで、なんだ先見の明あるじゃん俺。

 しかし事務所や布袋らメンバーの逆鱗に触れたらしく、以来私はずーっとBOφWYは出禁なのであった。わははは。

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