市川哲史が明かす『LUNATIC FEST.』の隠された物語 <V系万博>2日間を“呑み”の視点で振り返る

 いつのかは忘れたが、大晦日恒例のX東京ドームライブ終演後の話だ。

 当時のXの打ち上げはバラバラで、その年はJやSUGIZOを連れてhide+PATA主催の高円寺居酒屋貸切大会に参戦した。水道橋から移動するにも程があるが、当時PATAが住んでたマンションの近所だから仕方ない。ライブスタッフも数多く参加して目茶目茶盛り上がったのだけど、さすがに元旦なので朝7時終了。当たり前だ。

 ところが「もう一軒逝こうよー♡」と両脚にしがみついて離れぬhideとPATAに根負けした私は、タクシーで一路《レッドシューズ》へ。

 入口に獅子舞のように整列し、「あけましておめでとーございますぅ!」と怪しい呂律で寿ぎを祝う我々3人の姿に、閉店作業中だった店長は本気で泣いていた。

 元旦朝8時。《レッドシューズ》は営業を再開し、我々は日本一早い新年会に興じたものの、1時間後には店内で爆睡した。ぶち殺されなかっただけ奇跡と言えよう。

 あれから20年の歳月が流れたものの、1995年の閉店を経て2002年暮れから南青山で営業再開中の《レッドシューズ》が、《LUNATIC FEST.》に出張していたのだよ! 初日はなぜか四方を暗幕で囲まれその存在がそもそも周知されてなかったものの、2日目にはそのレゾンデートルを発揮できたのが何よりも喜ばしいではないか。

 とはいえ私がいつ見ても、あそこで呑んでたのは櫻井敦司と今井寿だったけども。年代物の調度品かきみらは。

 そんな、私のような「あの当時」を知る輩たちにはまさに《レッドシューズ》的なメモラビリアだった、今回のルナフェス。両日ともLUNA SEAがhideの楽曲をカヴァーしたとか、GLAYがLUNA SEAの「SHADE」を演ったなど、その具体的な詳細はすでにあちこちでレポートされてるようだから、そちらを参照してもらえばよろしい。

 なので私の琴線に個人的に触れた出来事に、幾つか触れておく。

 まず、東京YANKEES+PATAによる<エクスタシー野球部>復活っ――これはどうでもいいか。同じく《エクスタシー・サミット》的な匂いが漂った初日、大方の予想に反してあのX JAPANより目立ったのは、LADIES ROOMのGEORGEだった。

「アナーキー・イン・ザ・UK」に「酒と泪と男と女」という直球過ぎる選曲センスも可笑しいが、とにかく徹頭徹尾泥酔していた姿が潔い。ニコ生では、放送禁止用語曼荼羅と化して退場処分に。初日ラストのLUNA SEA「PRECIOUS…」セッション大会では、振り回そうとしたスペアの真矢銅鑼が己れの足の甲に落下。それでも酒の力を借りて愉しく暴れ続けたものの、出演者たちがステージを下りた瞬間に、「いでぇええええ」なる断末魔の咆哮がバックヤード中に轟いたのであった。

 うーん、なんだかよくわかんないけどとても《エクスタシー・サミット》だ。

 また《L.S.B.》な2日目ではやはりBUCK-TICKの、これぞ老舗の<極東ストレンジ>ライブが初見の若いリスナーのみならず、出演者やスタッフ、関係者をも威圧した。念願の共演をよりにもよってあの「ICONOCLASM」で果たしたJの至福の笑顔も、BTの特異な存在感を象徴していた。

 そういう意味では初日のDEAD ENDや2日目の<2/3ソフバ>minus(-)、D’ERLANGER、そして私が編集長時代の<音楽と人オールスターズ>としか思えない、デルジISSAY+土屋昌巳+ミッシェル・ウエノコウジ+マッドMOTOKATSU+ソフバ森岡賢というKA.F.KAなど、レジェンドたちが初心者をいとも簡単に虜にした印象が強い。

 オリジナルV系を実体験していない世代にとって、<先達>はとてつもなく新鮮だったようだ。フェス両日、先達が出演する度にその「半端なさ」がツイートされ、その名が続々とヒットワードランキングを急上昇したのが印象的だった。私の周りにいた若いスタッフたちですら、先達の音圧やら音数やら音量やら技量やらダイナミズムに、いちいち驚きいちいち感動していたのだ。あ、GEORGEに代表される常軌を逸した生態にも、か。

 我々が日常的風景として慣れきっていた<V系と呼ばれたロック>は、「俺が恰好よいと思えたらそれでいいじゃん」的な我儘な美意識が命。だから「なんでもあり!」とばかりに音楽性も世界観も詞も音も衣裳も化粧もステージも宣伝も演出も、すべてが足し算を重ねて過剰に濃くなった。つまりあの豪快にして緻密なバンドアンサンブルは、<V系と呼ばれたロック>の宿命なのだ。

 しかしあれから幾星霜、「洗練」という名の軽量ポップミュージックに慣れきった若い耳に、<V系の哀しい宿命>はどうやら<V系だけの圧倒的なスペック>として激しく突き刺さったようだ。

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