新作『CUTE』インタビュー

テイ・トウワが語る、トレンドを超えた音楽の作り方「アンテナが錆びてても必要な電波は入ってくる」

「表現をし続けることが自分の今のポリティクス」

――クラブ・シーンのメインストリームはそうなりつつあったとはいうものの、自分は違う現場でやっていけばいい、とはならなかったんですか?

テイ:そもそもDJの夜勤?(笑)、夜の仕事がきついかな、というのもあるんです。年齢的なこともあるじゃないですか。それはシーンのせいとは言えないですよね。僕が28年前…87年にやり始めた時は、ひとりで一晩回してましたけどね。レゲエからロックからダンス・クラシックからヒップホップから。なんでもかけないと一晩できなかったですからね。でももうそれは体力的に難しい。なのでDJ25周年を迎えたところでセミリタイアしちゃいましたね。温泉があるところなら多少ギャラが安くても行きたいですけどね(笑)。そうじゃなくクラブでやるEDMのパーティーみたいなところに行って、無理してでも迎合してEDMをかけたいとは全然思わない。

――そりゃそうでしょうね。

テイ:だから…申し訳ないけどDJのことはどうでもいいかなと(笑)。継続は力なりと思うと同時に、人生は変化だとも思うんで。なのでゼロにするわけじゃないけど極力減らそうと。今まですごく大きかったのを減らすことで、そのぶんの体力や集中力を、オリジナル・アルバムの制作に向けようかと思ったんです。

――さきほどDJ仕事は9割減らしたとおっしゃいましたけど、その9割分は創作活動に費やしているわけですか。

テイ:温泉ですかね(笑)。まあ温泉と創作がほとんどイコール…(笑)。露天風呂で曲が浮かんだりするんで。

――ナチュラル・エコーのスタジオで(笑)。

テイ:(笑)特権じゃないですか。GWの軽井沢なんてどこも混んでて悲惨ですけど、僕らは平日の朝イチで行ったりできるんで。若い時みたいに、スピーカーの前に座ってMac立ち上げて、さてやらなきゃ、みたいなのは…そういう時もありますけど、めっきり少なくなった。クルマで数分のところに立ち寄り温泉みたいなのが2軒あるんですよ。そこで思いついたら、忘れないようにして急いで家に帰って。

――(笑)なるほど。今回は2年ぶりのアルバムですが、そういう変化が背景にあると。

テイ:そうですね。特にクラブDJを極端に減らしたということですね。それでもまだ制作は続けられている。2年前と違って体力は確実に落ちてますけど、それでもテンポを落とさずに作れたなと。

――クラブで得られる最新の情報とか現場での雰囲気とか、そういうものが創作にフィードバックしていた面もあったと思うんですが。

テイ:それはよく言われます。ニューヨークから東京に帰ってきた時とか、軽井沢に引っ越した時とか。同じように心配されましたけど、逆にもっと(最新の動向を)わからなくなりたい。流行りとか、トレンドとか。近年ネットで試聴して情報を集めるのがメインになってますけど、たまに店にいくと、こんなものが出てるんだって気づくでしょう。そうしてリアルに足を運ぶことで得られる情報も絶対あると思うんですけど、若い時みたいにすべてにわたってアンテナを張り巡らせて、それこそ今の女子高生の靴下の長さまで含めて、すべてのトレンドを知ろうとするようなことは、もう必要ないと思うんです。むしろもう、何もわからなくてもいい、できればわからなくなりたい、ぐらいで。どこぞのセレクトCDショップの激ヤバマストとか、がっかりさせられることが本当に多い。そんなハイプだったら知らなくてもいい。

――今までありとあらゆるいろいろな情報を入手してきて、だいたいほとんどのことは見切ってしまった。

テイ:そうですねえ…ある程度経験を積むと、「なんだこれ?」と思ったものが、時間がたってみたら「あ、これがネタだったんだ」って気づくとか、あるじゃないですか。20代の時にすげえって夢中になったものがモロパクリじゃん、みたいなことに30代40代になって気づいて幻滅したりね(笑)。

――ありますね。

テイ:だから…画期的な新情報・最新流行なんてものよりも、自分にとっての9枚目のアルバム(『CUTE』の次回作)が一番興味がありますね。

――外からの刺激はもはや創作のモチベーションにはなりえないということでしょうか。

テイ:いやいや、さっき言った旅行や温泉っていうのも外的刺激ですよ。アートとか。展覧会を見にLAまで行くとか、若いころは思いもつかなかったですし。『LUCKY』収録の「RADIO」で歌っている"錆び付いたアンテナ"=自分のことなんですよ。錆びててもいいやって。錆びてても必要な電波は入ってくるし、ピカピカでいる必要はないなって。ピカピカは若い人の特権だと思うから。

――はい。

テイ:3.11以降っていうのは自分の中では大きいと思う。言いたいことができた。表現をし続けることが自分の今のポリティクス。作り続けることがね。直感で動くことがコンセプトというか。それはずっと思ってるんですけどね。そんなにないんですよ、コンセプチュアルに動くことが。ただ『LUCKY』と今作は、3.11以降続けていこうと思った、そしてまだやれてるなっていう確認なんですよね。

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