『海街diary』の情景は、音楽を通してどう表現されたか? 菅野よう子の劇伴から紐解く
6月13日から全国映画館で上映され、はやくも続編の制作を望む声が各所で挙がっている映画『海街diary』。同映画は、吉田秋生著の同名原作漫画を、『誰も知らない』や『奇跡』『そして父になる』など数々の名作ヒューマンドラマを描いてきた是枝裕和監督が作品化したものだ。
作品では、主演の4姉妹を綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずが務めるほか、豪華キャストが鎌倉を舞台に熱演。不在となった父が引き合わせた姉妹の絆と、それぞれの心の陰影を描きつつ、基本的には平和な日常風景を映し出したヒューマンドラマに仕上がっている。そして、この作品において重要なファクターのひとつを担っているのが、菅野よう子が手掛ける劇伴であろう。
是枝は劇伴を決めるにあたり、最初に“四姉妹=四重奏”をイメージしたという。その旨を撮影現場で相談したところ、長澤から菅野の名前が挙がり、実際に菅野の楽曲である「モスリンマアチ」(連続テレビ小説『ごちそうさん』サントラCD『ゴチソウノォト』収録)を映像に重ねたところ、抜群の相性だったことから今回の起用が決定したそうだ。
菅野は音楽作家として、これまでに数多くの名作を彩ってきたが、実写映画に楽曲を提供するというケースは、じつはアニメ作品ほど多くはない(といっても『下妻物語』や『ハチミツとクローバー』『シュアリー・サムデイ』など名作揃いではある)。ここでは、いわゆる“アニメ畑”の仕事以外における彼女の魅力を改めて紐解いていきたい。
菅野がアニメ作品で見せる側面を語るとき、頻繁に挙げられるのが『マクロス』シリーズや『カウボーイビバップ』、『攻殻機動隊』だろう。菅野はこれらの作品で、スケールの大きなSFを、幾重にも積み上げられた壮大なオーケストラサウンドやコーラスを使って表現したり、スピード感のある活劇を、切れ味鋭いホーンセクションで描き出している。一方、ドラマを含む実写作品では、先述の『下妻物語』では奇想天外な物語をさらに盛り立てる劇伴を制作したり、『ハチミツとクローバー』ではブリティッシュ・テイストを感じさせるロック調の楽曲で、青春感を演出してみせるなど、どこかポップな側面が目立つのだ。