乃木坂46が描いた“アンダー”の未来図 「サード・シーズン」で確立したブランド力を読む
またこのサード・シーズンでの大きな進化は、前回のアンダーライブではまだ研究生として位置づけられていた伊藤純奈、佐々木琴子、鈴木絢音、寺田蘭世、山﨑怜奈、渡辺みり愛が、初めて他のメンバーと同様に正規メンバーとしてライブを迎えたことである。すでに昨年12月の有明コロシアム公演の「全員センター」企画では彼女たちもセンターに立つ機会を与えられ、アンダーライブの成員としては他のメンバー同様の活躍をしていたものの、研究生という肩書きは外れていなかった。今回、彼女たち6人もはじめから正規メンバーとして楽曲内でのポジションを託され、正規メンバー20人用のフォーメーションが完成した。2期生が加入して以降、「研究生」という肩書きは長らく、1期生と2期生との溝を暗示するような言葉にもなっていた。今年2月のバースデーライブでその言葉が取り払われたことはその溝を埋めるための重要な一歩であったし、正規メンバーとして臨んだこのアンダーライブの活動によって彼女たちはさらに確かな位置を得た。だからこそ、アンコールで披露された6人のユニット曲「ボーダー」は、研究生としてのこれまでと、他のメンバーと一線に並んだ現在とを繋ぐ、開かれたものになった。
今回のアンダーライブは11thシングルのアンダーメンバーとしての活動であるため、センターの重責を背負ったのは11thのアンダー曲センターの中元だった。しかしまた、昨年からのアンダーライブの支柱として名が刻まれなければならないのは、やはり井上小百合だ。乃木坂46デビュー時からの選抜常連メンバーだった井上がこの一年余り、アンダーに入ることも多い不安定なポジションで見出したのは、ライブを充実させる組織としてのアンダーメンバーの柱の役割だった。伊藤万理華や中元のようにはっきりとした「顔」としてのセンターというよりも、フロントとバックを柔軟に動き回りライブを支えた井上の存在があってこそ、アンダーライブには懐の深さが生まれた。体調が万全でない中で、左膝にテーピングを施してアンダーライブを迎え、一部公演を休演しながらもステージに立ち続け、最終日にはそのテーピングが両膝になっていた。しかし満身創痍になりながらセンターに立つ「何度目の青空か?」の井上は気高く、この曲が選抜メンバーの代替ではなく、彼女をセンターとした別バージョンのオリジナルとして生きていることを感じさせた。選抜かアンダーかに限らず、彼女の存在は乃木坂46にとって大きなものになっているはずだ。
サード・シーズンを迎えたアンダーライブは、彼女たちがアンダーメンバーであることの意味を一変させた。アンコールでは過去のシングルのアンダー曲すべてをメドレーで披露し、これまでの歩みを立体的に浮かび上がらせる。もちろん、アンダーライブという場が作られる以前から「アンダー」は歴史を積み重ねていたし、その日々があるからこそ現在のアンダーライブの躍動がある。その歴史を、このサード・シーズンのアンコールではくっきりと縁取ってみせた。乃木坂46の「アンダー」はいまや、選抜から漏れたメンバーという立場からある意味で解放され、選抜とはまた違う色を見せるひとつのブランドになった。性質上、アンダーメンバーも選抜メンバーもそのつど、その人員を変化させていく。しかしその時々のメンバーが、「アンダー」というブランドを背負い、プライドを見せるライブを続け、またこのブランドを継承していくのだろう。歴史の蓄積とともに、そんな未来図が描けたことは「乃木坂46 アンダーライブ サード・シーズン」の貴重な収穫だった。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。