嵐が描いてきたゼロ年代の情景とは? ドラマ作品における軌跡をたどる(前編)

櫻井翔とクドカンドラマ

 また、イケメンドラマの構造を最大限に活用――つまりジャニーズアイドルさえ出ていれば何をやってもOKという枠組みを利用――して自分たちの作りたいドラマを作り続けたのが脚本家・宮藤官九郎とプロデューサーの磯山晶がチームを組んで制作した『池袋ウエストゲートパーク』や『うぬぼれ刑事』(10年)といったTBSで放送されたクドカンドラマである。

 90年代小劇場文化のもっとも暗くて深い場所にいた松尾スズキが主催する劇団・大人計画に所属していた宮藤が、ジャニーズアイドルの出演するドラマの脚本を執筆するというのは、当時は驚かされたものだが、ジャニーズサイドとしては有名クリエイターの作品に出演することで箔をつけることができ、クリエイターサイドはジャニーズアイドル主演ということで商業面(テレビドラマでは視聴率やDVD-BOXのセールスにおいて)での保険をかけることができるという、双方の利益がかなった幸福な結婚だった。

 なかでも櫻井翔が出演する『木更津キャッツアイ』は、クドカンドラマのブランドを決定づけた、00年代ドラマの金字塔である。

 本作は余命半年の青年・ぶっさん(岡田准一)を中心とした男の子たちのグループが昼は草野球チームの木更津キャッツ、夜は怪盗団・木更津キャッツアイとして活躍する青春コメディだ。櫻井はグループの中で、一人だけ大学生で童貞のバンビを演じた。

 まだ演技経験が少なく決してうまいとは言えないぎこちない演技だったが、そのぎこちなさが初々しさにつながり、生真面目すぎてめんどくさいがみんなから愛されているバンビにぴったりとハマっていた。

 それにしても女性に夢を売る男性アイドルが、童貞役を演じ、男子校的なノリを「これでもか」と展開する『木更津キャッツアイ』が放送され女性視聴者に受け入れられたのは、テレビドラマとしてはもちろんのこと、アイドルドラマとしても快挙だったと言える。

 本作以降、若手男性アイドルを多数登場させることで新人俳優の登竜門となるイケメンドラマは多数制作されるが、『木更津キャッツアイ』を筆頭とするクドカンドラマが果たした役割は大きい。

 アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(95~96年)の内向的な主人公・碇シンジや、97年に酒鬼薔薇聖斗の名前で猟奇殺人事件を起こした14歳の少年が象徴的だが、思えば90年代は男の子を少年犯罪のようなネガティブな形でしか描くことがむずかしい時代だった。

 ふつうの少年たちはスポットライトを浴びることはなく、隅っこに追いやられ、男の子たちの男子校的な共同体を幸福な形で描くことはとても困難だった。

 テンポの速い会話劇や、東京ではなく木更津という郊外を舞台にしたことなど、00年代において様々なイノベーションを起こした宮藤官九郎のドラマだが、なにより最大の功績は、ふつうの男の子たちの幸福な共同体を00年代に描ききったことだろう。この流れは二宮和也が主演を務めた童貞高校生グループの青春を描いた『Stand Up!!』(03年・TBS)や嵐の5人が出演した映画『ピカ☆ンチ LIFE IS HARD だけどHAPPY』(02年)へとつながっていく。(後編に続く)

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』
リアルサウンド編集部・篇
価格:¥ 1,500(+税)
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内容紹介:ごく普通の青年たちがエンタメ界のトップに君臨したのはなぜか? 音楽性、演技・バラエティ、キャラクター、パフォーマンス…… 時代が嵐を求めた理由を、4つの視点から読み解いた最強の嵐本! 嵐の音楽はポップ・ミュージックとしてどんな可能性を持っている? 現代思想で読み解く各メンバーのキャラクターとは? 嵐ドラマは00年代の情景をどう描いてきた? 青井サンマ、柴那典、関修、田幸和歌子、成馬零一、矢野利裕など、気鋭の評論家・ライターが“エンターテイナーとしての嵐”を語り尽くす。総合音楽情報サイト『リアルサウンド』から生まれた、まったく新しい嵐エンタメ読本。

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