欧州プログレの奥深き世界ーーマグマ、S・ウィルソン、ムーン・サファリらの“現在地”とは?
ユーゲン――チェンバー・ロックの現代的解釈
ヨーロッパのプログレといって、イタリアのアーティストを外すわけにはいきません。60〜70年代にかけてPFM、バンコ、アレア、ニュー・トロルスといった、代表的なユーロ・プログレ・バンドを多く輩出し、現在でも王道から前衛までの多様なバンドが活動しています。中でも、04年に結成されたYUGEN(語源は日本語の“幽玄”とのこと)は、チェンバー・ロックを現代的に昇華させた気鋭のグループ。イタリアン・プログレの叙情的旨味を含みながらも、アヴァンギャルドに攻めまくるその音楽性は、今だからこそ広く支持されるものでしょう。今のところの最新作は、2012年に発表されたライヴ盤の『ミラーズ』で、最近ではエンプティ・デイズやノット・ア・グッド・サインといったサイド・プロジェクトを発動させています。
カメラ――クラウト・ロックの音楽性と実験精神を今に受け継ぐ
ドイツのプログレ・シーンに目を向けると、ちょっと様子が変わります。60〜70年代に登場した、アモン・デュール、アモン・デュールⅡ、グルグル、ノイ!、カン、ファウスト、タンジェリン・ドリーム、クラフトワーク、アシュ・ラ・テンペルなどが代表的なバンドとして挙げられますが、彼らは西洋クラシック音楽の秩序に抗うかのように、サイケデリックで実験的な音楽に取り組んでいました。当時、“クラウト・ロック”という蔑称で呼ばれたそのサウンドは、90年代以降に多くのフォロワーを産み、現在ではリスペクトの対象にもなっています。若きクラウト・ロッカーであるベルリン出身のカメラも、ノイ!やカンのサウンドを継承するバンドの1つ。ミヒャエル・ローターやディーター・メビウスといった重鎮たちと共演を重ね、話題となっています。14年発表のアルバム『Remember I Was Carbon Dioxide』も、チープな音色を使った有機的なミニマル・サウンドが心地良い秀作です。
ヨーロピアン・プログレは、ともするとマニアックで暗〜い世界と認識されてしまいます(笑)。関係バンドが出演するライヴに行くと、ほぼ間違いなく年齢層は高めで、残念ながらコンスタントに新規リスナーを獲得している様子ではありません。ただ、ポピュラー・ミュージックの流行から独立したところで発展しているため、音楽的な志向や取り組み方について学べる点も多々あり、閉鎖的にしておくのはもったいないと常々思っています。意外なところでお気に入りが見つかることもありますので、ぜひこの機会に一度耳を傾けてみてください。
■大久保 徹
ライター、編集者。エンジニア、「リズム&ドラム・マガジン」誌の編集を経て独立。日本工学院専門学校ミュージックカレッジ非常勤講師。Twitter(@OHKUBOX)