新アルバム『triology』インタビュー

クラムボン・ミトが語る、バンド活動への危機意識「楽曲の強度を上げないと戦えない」

「楽曲の強度を上げていかないとダメ」

ーーこれまでのバンドのようなやり方では、今の時代のスピード感についていけないと。

ミト:ええと……クラムボンに関してはもう、そうだと思いました。

ーーいつごろそれを自覚したんですか。

ミト:去年か一昨年ぐらいにはもう。「Rough & Laugh」を作ったぐらいの時(2012年11月発売)に、あ、もう普通のやり方じゃ無理だな、限界きちゃったなと思ったんです。

ーーつまり従来のように小淵沢のスタジオにこもってじっくりと曲を育てて、時間をかけてアルバムを作っていくという制作工程自体に限界を感じたわけですか。

ミト:小淵沢で作るのは変な話、<アーティスト・レコーディング>であり、<アーティスト・ミックス>ですよね。

ーーアーティストが自分で録音やミックスまでやること。

ミト:そう。それはプロフェッショナルなパッケージだったり、一般マーケットからは非常に遠いんですね。今アーティスティックといわれるアプローチはーーすべてがそうではないにせよーーマイナスの部分が非常に大きいと思うんです。<アーティスト・ミックス>と称して自分で混ぜ(ミックス)ました、マスタリングしました。でも今のこの世の中では、特に日本では、アイドルソングでありアニソンであり、そういうものと並列で聞かれるわけですよ。そこで音量が5dB違うともう、これダサいんじゃない、で終わっちゃうんですよ。ハイエンド伸びてない?だからこれはダメだよってなっちゃう。だから僕らは今回の『triology』を作る時に、東京のスタジオで、極上のアナログテープで録り、なおかつ32bit/96kHzのハイスペックのプロツールズで混ぜ、しかも全員現代のアイドルとかアニソンだったり劇伴を徹底的にやってるようなプロフェッショナルと一緒にやって作り上げる、という方向にシフトしてるんです。今となっては、アーティスト・ミックスは確実に広がらないんですよ。奇跡的にうまくいってる人もいますよ。でもそういう人たちのプレッシャーはハンパじゃないのを知ってる。もの凄いプロフェッショナルと互して戦っていかなきゃならない。もう命がけなんですよ。だから僕らはそこで、自分でミックスをやるんじゃなく、アニソンやアイドルのスペックに負けないような強度の楽曲をどう作っていくかという発想で制作するわけです。絶対そっちの方が正解だと思うから。僕らが変わらないオリジナリティをもっているのは自覚してるんです。でもそのオリジナリティを今という時代にどう鳴らしていくのか。そこで以前と同じようなことを繰り返していては、聞いてもらえる機会はもはやどんどん少なくなってしまう。

ーー同じポップ・ミュージックという土俵の上とはいえ、アイドルやアニソンと同じ舞台で勝負することが必要でしょうか。

ミト:うん、そう小野島さんのように考える人たちが多いですよね。だから…それはそれでいいんじゃないですか(笑)。僕は違う、というだけで。だから…誰かに同意を求めようと思ってやってるわけじゃないんで。でも…やっぱりいろんな人に聞いてほしいと思うじゃないですか(笑)。だから…これが足りないあれが足りないと感じて、ひとつひとつクリアしていくことを考えると、こういうやり方になるのかなと。

ーー音質面もそうだし、制作面もそうだし、ライヴのあり方もそうだし、プロモーションの部分もそうだし、すべてを更新していかないと、現代のポップ・ミュージックとしては勝負できない。

ミト:うん。だから僕はその、勝負できる場所までクラムボンをもっていってあげないといけないのかな、というのと…あと20周年というのがあったので、まとめというものができる、いい機会かなと思ったんです。今まで好き勝手にやらせてもらってきたんで、今回ぐらい、周りのことをちょっと考えてみるのもアリかな、とはちょっと思いました。ファンの人たちが思っているクラムボンと、僕ら3人が思ってるクラムボンって、微妙に距離があるような気がするんです。

ーーどういう?

ミト:それがなかなかなかうまく伝えられないんですけど…たとえば最初の3枚が好きな人たちもいるし、『id』『imagination』『てん。』が好きな人もいる。『Musical』『2010』が好きな人もいる。それぐらい極端に偏った時代があって。そういうそれぞれの良さをうまくすり寄せて、より今の時代にあわせてアップデートした形で、両方の良さをアピールできるようなプレゼンテーションができたらいいな、と。

ーー『Musical』や『2010』は、これという強力なコンセプトを決めないで、そのつどバンドがやりたいもの、もっているものを素直に出した結果、クラムボンのいろんなものがバランスよく出せたアルバムだったと思うんですが、今回はそれとはまた違う考え方だったということですか。

ミト:もしかしたら今作は、その<決めごとをしない>という考えでやってきた過程の、最終的な着地点なのかもしれないです。『Musical』や『2010』では、『ドラマチック』までのクラムボンと、『id』から『てん。』までのクラムボンと、いろいろすりあわせようとしてたと思うんです。『triology』自体はそこの結実ということになるのかもしれません。ただ……その中で考えてたのは、楽曲の強度みたいなのは完全に上げていかないとダメだなとは思いました。

ーー「強度」とは具体的に?

ミト:メロディの太さと歌詞ですね。クラムボンの今までの歌詞ーーそれこそ最初から『2010』まで、(原田)郁子さんのリリックって正直、わかるところもあるけどわからないところも多いんですよ。歌詞の書き方が、きちんとテーマにフォーカスするんじゃなくて、<雰囲気>なんですよ。これが言いたいあれが言いたいと言ってそうで、言い切れてない部分が多い。全部が全部じゃないですけど、それこそ80%近く、それなんです。変えなきゃいけないなって思ったのは、どっちかというとその部分かもしれない。

ーー『ユリイカ』誌の原田さんのインタビューで、今回すごく歌詞に時間がかかったって言ってましたけど、つまりそれだけミトさんによって、ハードルが上げられたということですか。

ミト:うん、そうですね。それはもう…外の仕事をやって、ほかの作詞家の方とご一緒して痛感したんです。松井五郎さん(安全地帯、CHAGE&ASKAなど)とか岩里祐穂さん(今井美樹、坂本真綾など)とかmeg rockさん(でんぱ組.inc、中川翔子など)や、今のアニソン周りの方とか、ああいう人たちの歌詞の伝え方だったり曲の読解力とか凄いですよ。こんなに曲に対して真摯で、徹底的に突き詰めていくんだなってことをまざまざと見せ付けられたわけです。郁子さんは、それこそ録音の前の日まで徹夜で書いてきて、まあ語呂も音階も音節も感触として良かったからいいんじゃない、ぐらいの感じでやってたんですよ。僕もそれでいいと思ってたんだけど、今や明らかにそれじゃ満足できない自分がいて。正直…これははっきり言っちゃいますけど、今の時代の作詞ってことでは、今までの郁子さんのスタンスでは成立しないんです、確実に。

ーー今のポップ・ミュージックの最前線でやっていくには、ってことですか。

ミト:そうそう。絶対に無理です。徹底的に無理だと思ったんで。実は「yet」(先行シングル)のデモは2月ぐらいにできていたんですけど、歌詞があがってきたのが10月の頭なんですよ。しかもその間、その一曲しか作ってないんです。それまで何十回と、ずーっとメールでダメだしをして。もらったものが、とにかく何を伝えたいのかまったくわからない。今あなたが向き合わなきゃいけないのは、クラムボンとして今この時代に出すべきポップ・ミュージックを作ることなのに、彼女はそれに向き合えてなかった。とにかく(歌詞が)遅れに遅れて、いろんな制作のために押さえていたバジェットも、それに全部もっていかれてるわけですよ。そこはすごいフラストレーションだったけど、でもここでちゃんと書けないと、絶対に歌入れさせないってつもりで、徹底的に追い込んでいったんです。そこで出てきたのが「yet」なんですよ。

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