嵐が<崖っぷち>アイドルだった頃(後篇) モラトリアム期間に培われた「嵐らしさ」とは?

「嵐らしさ」は<崖っぷち>という名のモラトリアム時代に培われた

 たしかに置かれた環境自体も特殊というか、かなりユニークではあった。

 アイドルとしては前代未聞の、彼らのプライベート・レーベル《J Storm》が設立され、ポニーキャニオンから独立したのが2001年10月。一応「嵐のためのレーベル」といえば聞こえはいいが、要は深刻な伸び悩みに対するカンフル剤的施策だったはずだ。きっとたぶん。

 だから同じジャニーズ事務所直営のレコード会社でも、97年2月に「超大型新人」KinKi Kids を売り出すため満を持して設立された《ジャニーズ・エンタテイメント》に較べると、漂う切羽詰まり感がせつなかった。しかしその分、まるでインディーズ・バンドのようなアプローチの連続が功を奏したのか、いつしか嵐は<アイドルらしくないアイドル>としてマニアックな少女たち(苦笑)に浸透していく。崖っぷちながらも。

 02年2月発表の移籍第1弾シングル“a Day in Our Life”は、<NOメンバー写真+イラスト・ジャケ+NOカップリング曲+死滅寸前の8㎝CD+500円>という、異例5連発の珍アイテム。

 そのセールスはともかく、妙なカルト感は生んだ。

 バラエティー番組映えしないという当時の弱点を逆手にとり、あえて時代遅れのアイドル映画を嵐主演で製作配給した、02年秋公開の原案・V6井ノ原快彦、監督・堤幸彦、脚本・河原雅彦による『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』。

 配給規模は小さいながらも、そのアイドルらしからぬカジュアルなサブカル感は、ごく一部ながらマニア人気を呼んだ。

 そして肝心の楽曲群は楽曲群で、「本気で売れようと思ってんのかこら」と言いたくなるほど<まさかの実験歌謡曲>路線、と熱血感や商売根性が明らかに希薄欠落していた。わははは。自由だねぇ。

 たとえば5周年の2004年7月に満を持してリリースした『いざッ、Now』は、「夏アルバム」のはずなのに夏らしさを徹底的に排除していた。「曲がってるよね?」との櫻井の失笑を待つまでもなく、この非直球系の外し感やすかし感が嵐の個性として確立したのがこの頃なのだ。当時、嵐の5年間をふりかえった松潤の言葉が象徴的だった。

「何を直球というかも難しいと思うんだけど、『これじゃなきゃ駄目』という括りを、もう棄てちゃった感があるから俺たち。それに正統なものがあるからこそ、逆に崩せてると思うし」

 そう、この感じがそもそもの嵐というか、いまや日本中が知っているところの「嵐らしさ」とは、<崖っぷち>という名のモラトリアム時代に培われたと断言できる。二宮の自己分析はもっとわかりやすい。

「やっぱりこの5年で考え方が変わったというか、主観だけだったのが嵐というものを客観視できるようになって、いろいろ構想が練られるというか。具体的な未来像じゃないけども、そういうのが見えるのはそれこそ『AVは18歳未満が観てはいけません』みたいなのと同じで、制約の中での動き方が上手くなったというか(不敵笑)」

 <アイドル・嵐>としての枠組みを意識しつつも、5カウント以内なら反則もOK的な自由さを、本人たちも満喫し始めていた。それもこれも5年間の「実験と経験」を経て、彼ら自身が嵐を客観的に見られるようになったからこそ、グループを意識しつつ自由に表現できるのである。櫻井の5周年観もまた、同様だ。

「最初は枠が見えないからどこまで行っていいのかわかんなくて、動き回ることができなかった。それがだんだん見えてきて、逆にいまは『その枠を拡げよう』と考えられるし、『その枠の中で何ができるか』も考えるようになったから、たぶん自由も見つかるようになったし。というか自分たちで嵐というものを理解したんでしょうね……でもなんだかんだで僕らの色みたいなのができたのは、この1年2年だと思ってるんで僕は」

 そういう意味では、<嵐っぽさ>という具体的な輪郭がぼんやりしたまま、なぜか個性派になれたことこそ立派な才能なのではなかろうか。

 松潤曰く、「ベスト盤聴くとどの曲も嵐っぽい印象があるのに、『これが嵐サウンドです』という定番がないんですよねー(苦笑)」。

 櫻井曰く、「もうね、“サクラ咲く”まで皆がカラオケで盛り上がってくれるような曲がなかったんですよね、ウチは。まあ俺のラップがあるせいで唄えない、というクレームが殺到してたんですけど(失笑)」。

 こうして嵐は、ほぼインディーズ・バンド状態から日本一のスーパーアイドル・グループに駆け上がっていったのであった。というか、アイドルとして鳴かず飛ばずだったからこそ見つけられた、唯一無二のオリジナリティーなのだ。おお。

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