小林太郎が探る、新たなサウンドと表現方法 「挑戦したかったし、振り切ってみたかった」

「自分というものを軸に何か変えようと思っても、あまり変わらない」

――小林さんにとってのギターヒーローはいます?

小林:ヒーローはニルヴァーナですかね。下手っていう(笑)。そこがヒーローです。

――カート・コバーンのギターは歌のバッキングでありながらも、メロディもあるという3ピースならではの妙がありましたね。

小林:センスがすごくいいし、さっきの歌の話と同じで、うまいのが求められているんじゃなくて、いいっていう漠然としたものが求められていて。他の人が弾いたらもっとうまいんだろうけど、カート・コバーンが弾かないとビブラートの位置とかチョーキングの割合とか、音作りとか全然ちがうじゃないですか。そこにみんな、うわーってなるわけで。

――世代的には、ニルヴァーナや90年代のバンドは後から掘り下げていった感じですよね?

小林:最初はバンプとかアジカンを聴いていたから、洋楽に触れあう機会はなかったんです。でも、自分の好きなバンドの人たちはどうやら洋楽を聴いていると。俺は自分の好きな人たちみたいに曲を作れるようになりたいから、同じように聴かないといけないと思って。最初は何の良さもわからなかったけど、バイト代を全部CDにつぎ込んだんです。はじめはジミヘン聴いても、「音、悪っ!」て思っていたし、洋楽をひとつもいいと思わなかったけど、ある日突然ニルヴァーナ、めっちゃかっこいいって思ったんですよ。神聖かまってちゃんの曲じゃないけど、すごいガツンときて。体の中心らへんで音楽を感じる感覚があった。それまでは耳とか頭で聴いていたんですけど、理屈じゃない感覚みたいな。ああ、邦楽と洋楽のちがいってここなんだなって――どちらにもそれぞれの良さがあると思うんですけどね。邦楽は細やかなところが素晴らしいし。でも洋楽の大ざっぱな感じ、燃費悪いけど音がすごいみたいな(笑)。そこをいいなと思ってしまったからこそ、練習もしなくなり、自分で書く曲も変な、よくわからないものになり(笑)。そうやってできたのが初期の“安田さん”とか“美紗子ちゃん”なんです。“美紗子ちゃん”はバラードですけど、“安田さん”なんてすごく変な曲だし。今、自分を顧みると、これは多分誰にも理解されないだろうな、でもやってみたいなって思っていたこの当時がないと、絶対オーディションにも受からなかったと思うんですよね。何がどうなるかわからないなと思う。

――今作『DOWNBEAT』ではアレンジャーの方が入っていますし、先ほどもいろんな人に相談しながら作ったということだったんですが、小林さんが作ったデモの段階ではどのくらいの形まで持っていっていたんですか。

小林:ギターのフレーズと構成とコードとメロディ、ですね。普段は自分でアレンジしたものを、さらにアレンジャーさんによくしてもらったりするんですけど。今回は、曲はもちろん自分で作るんだけど、それをどうアレンジするかを自分から何も言わないことで予期しないものができるはずだと思って。

――具体的にこうしてほしいとか、こういう曲にしたいんだということは言わなかった?

小林:コンセプトとしてクラブ・ミュージックの要素を取り入れたいっていうのはあったんです。でも、そのバランスも自分ではわからないし、どこまで取り入れるのかもわからない。もしかしたら、もっとクラブ・ミュージックそのものの曲ができるかもしれないけど、別にそれでもいいし、ロックのままでもいい。ただ、新しいことに挑戦したかったし、振り切ってみたかったんですよね。でき上がりがわからないままの作業だったけど、できてみたら意外とバランスがよかったのかなと思った。ロックな曲はロックな曲であるし、今までとちがったドラムンベースっぽい曲もあって。

――そこまでアレンジを他者に任せられるくらい自分の曲を手放しできたのは、どうなるかっていう好奇心のほうが勝っていたから?

小林:そうですね、でも、「小林太郎」としてはじめてからは、その時々で、アルバムごとに振り切って作っていたので。今回もそんなに違和感はないんですよね。ただちがうのは、今までは作る時が大変でそれを加工したり編集するのはラクだったんですけど、今回は作る時はラクなんだけど、編集にいちばん耳を使ったんですよね。音の整理をするときがいちばん難しかった。例えば、今までは声をがつんと大きく出していたところを、今回は主役がリズムだからヴォーカルやギターをできるだけ小さくしたいとか。音の整理の部分でエネルギーを使ったかなと思いますね。ヴォーカルも今回はできるだけクールに。激しい曲でも大人しい曲でも、線がまっすぐ伸びているような感覚というか、あまり意識が歌にいかないように歌っているので、そこは全然ちがいましたね。いつもなら感情に任せているところも、今回はきっちり音程に合わせてる。

――それでも、結果的に熱い声が響いているのは性なんですかね(笑)。

小林:そうなんですよねぇ、そこは計算ちがいで(笑)。やっぱ俺が歌うとこうなるなっていうか。太いっていうんですかね。それはそれで存在感がある声だなと自分でも思うんですけど。何をしても、俺が歌うと俺っぽくなるなっていうのは発見ですよね。今まではがっつり熱く歌ってるから熱いんだと思っていたんですけど。そうじゃなくてもこうなるなって(笑)。

――自分の声の存在感を再確認したんですね(笑)。

小林:声もそうだし、曲もそうですよね。曲だってもっとちがうふうになってもよかったんですけど。やっぱりフレーズだったりで俺っぽさが出るじゃないですか。良くも悪くも、自分で消そうと思っても消えないんだなって。自分というものを軸に何か変えようと思っても、あまり変わらないんだなっていうのは、発見でした(笑)。

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