菜食主義、シェアハウス、パーティ……現役パンクロッカーが見た、アメリカ・パンクスの生活

設備も充実したシェアハウス

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テキサス州オースチンの友人宅でのひと時。

 第1回目のレポート(一般家庭のリビングでライブも……現役パンクロッカーが米国ツアー最新事情を報告)でも紹介したが、アメリカのパンクス達はルームシェアをして何人かで部屋を借りていることが多い。何部屋かあり、広いリビングルームがある一軒家の場合がほとんどだ。そうやってシェアで借りることにより、より良い住環境に安く住めるのだろう。

 そういったシェアハウスの地下室などに練習が出来るスタジオスペースがあったりする事も多く、泊まっている家のリビングでいきなりライブをやってくれと言われる事もある。友人のバンドについて行った際には、泊まった家の裏庭でライブをやっていた。そんなアメリカの住宅事情の素晴らしさを羨ましく思う事は多い。

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モントリオールシェアハウス=モントリオールの三階建て二棟続きのシェアハウス。ここでハウスショーもパーティーも行われる。

 ツアーバンドが泊まるシェアハウスには、色々な友人達が集まってきて自然とホームパーティーの様になる。ライブが始まる前であったり、終わった後であったり様々だが、色々な人間が集まって来てワイワイと親交を深めるのも海外ツアーの特徴だ。週末ともなると、色んな場所でホームパーティーが行われており、飲みたい人はこの家、寝たい人はこの家と別れたりするが、寝たい人が寝られる事はほぼない。それだけみんな楽しみにしていてくれているのだろうし、一緒に楽しもうという気持ちなのだろうが、ツアー中毎日ほぼパーティーともなるとかなり疲れる。それでも日本から行っているので、結局パーティーに参加しヘロヘロになるなんてことが海外ツアーの日常であったりもする。ほぼ毎日パーティーだったとしても、朝方には終わり、移動中の車でも寝れるので、次はいつ会えるかわからない友人達と親交を深めることは、良い経験となり素晴らしいツアーの思い出となるだろう。

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カウンターバーの様になっているシェアハウスの一部屋。ここにも住人がいて、カウンターの上が寝床になっているという。

 シェアハウスも色んな環境がある。今回初めて訪れたカナダ・モントリオールではジャニックという女性がライブハウスを経営しており、確固としたパンクシーンがある。そのパンクス達が住むシェアハウスは、繋がっている三階建てのビル二棟すべてを借りていて、今まで見たシェアハウスの中でも一番規模が大きかった。様々な人間が住んでいて、バイクの整備場があったり、ゲストが泊まれる部屋があったり、そこで当然のようにハウスショーも行われたりする。素晴らしい環境が整っているモントリオールは、パンクの一種の理想郷のようだった。

 ほかに忘れられないのが、初めてアメリカに行った2004年のサンフランシスコ・ギルマンでのライブの後に泊まりに行ったシェアハウスで、隣街のオークランドの黒人街にあり、一晩中銃声が鳴り響いているようなところだった。ブラックパンサー党の党首が殺された場所の近くで、夜中に買い物に行きたいと言うと「お前等なら有色人種だから大丈夫だろう。俺達は白人だから外には行けない」と言われ、メキシカンの運転手とともに街に一件だけある夜中でもやっているコンビニに買い物に行った。そこには黒人がたくさんいて、運転してくれたメキシカンの友人も車から降りて来ない。店は入り口から異様な雰囲気で、東洋人が夜中に来ることなどない雰囲気。さっさと商品を選びレジに行くと、デカイ黒人が背後頭上から俺の金を覗き込みチェックしている。店員は俺の顔を見ながら首を横に振り「こんなところに来ちゃダメだ」とでも言っているかのよう。店を出ると運転して来てくれたメキシカンの友人が走り寄って来てくれて車に戻った。一緒に行った英語がベラベラのメンバー曰く、店内でもかなり危なかったらしく、事無きを得たのは運が良かっただけなのかもしれない。

 このオークランドという街のシェアハウスには3日ほど泊まったが、昼間買い物に行くのも地元の誰かと、こちらの代表者が簡単な武器を持たされて行かされたり、パーティーの最中の夜中にトイレが混んでいるので立ちションをしようと思うと「絶対に外には出るな」と釘をさされたりと、かなり危険な環境だった。後日、日本で同じ場所にツアーに行った友人が、一人で夜中にその街をぶらついていたと聞き、かなりびっくりしたが……。そういった危険な一面はガイドブックには載っていないアメリカの真実の部分なので、観光旅行にはないことを体験出来るのも海外ツアーならではだ。しかし危険な場所には極力行かないほうが身のためだろう。

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ポートランドで泊まったシェアハウスでの夜中のひと時。

 どこの国に行ってもそうだと思うが、海外では日本の常識が通じないところが多い。アメリカは銃社会なので危険もたくさんある。初めて海外から帰って来た時に、夜中に若い女の子が一人で携帯をいじりながらコンビニ帰りの買い物袋をブラ下げて歩いているのを見て、改めて日本の安全さに感激した。アメリカでは泊まる家の玄関に武器が用意してあるところもあったり、鉄柵に囲まれ、窓にも鉄柵が付いている家や、家に銃を持っている友人もいる。海外ともなると浮かれがちだが、そういった危険があることを充分心して海外ツアーを行えば、バンドにとっても、自分自身にとっても素晴らしい経験となり、今後の人生にとってかけがえのない物となるだろう。

■ISHIYA
アンダーグラウンドシーンやカウンターカルチャーに精通し、バンド活動歴30年の経験を活かした執筆を寄稿。1987年よりBANDのツアーで日本国内を廻り続け、2004年以降はツアーの拠点を海外に移行し、アメリカ、オーストラリアツアーを行っている。今後は東南アジア、ヨーロッパでもツアー予定。音楽の他に映画、不動産も手がけるフリーライター。
FORWARD VOCALIST ex.DEATH SIDE VOCALIST

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