矢野利裕のジャニーズ批評
TOKIOの隠れた魅力はブラスアレンジにあり? 20年間培ったロックサウンドを改めて分析
そんな筆者の立場からすれば、傑作と言うべきは、クレイジー・ケン・バンドの横山剣が作詞・作曲・編曲をし(イイネ!)、ブラスアレンジに中西圭一が迎えられた「トランジスタ・G・ガール」である。全編にわたってブラスサウンドが炸裂したネオロカを、ここまで歌いこなせるアイドルは他にいない。いや、アイドルに限らずとも、ここまでダンディーな魅力を打ち出せるバンドはそうそういない。横山剣はしばしばTOKIOの楽曲を手掛けるが、TOKIOのダンディーさを打ち出すという点ではまことに適任だった。
言われてみれば、ブライアン・セッツァー・オーケストラやビッグ・バッド・ヴードゥー・ダディ、あるいはチェリー・ポッピン・ダディーズのようなネオ・スウィングのバンドは、現在の日本の音楽シーンにおいて手薄だ。第1回目の日本レコード大賞は水原弘「黒い花びら」(1959)だが、そのカップリング「青春を賭けろ」は、ブラスの入ったロカビリーである。ジャズソング、ロカビリー、ムード歌謡、リズム&ブルース……日本の歌謡曲の歴史を振り返ると、その時代ごとに、ブラスサウンドが果たした役割は大きい。しかし90年代以降、ポップスの主流はクラブミュージックになり、予算もかかるブラスアレンジは減って行った。TOKIOの楽曲におけるブラスアレンジの魅力は、そんな途絶えかかった歌謡曲の流れを汲んでいるようで、とても貴重である。今後も変わらず、メンバーの演奏を中心にしつつ、堂々とブラスサウンドを響かせるバンドでいて欲しい。
■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。