石井恵梨子が「40代ミュージシャンきってのモテ男」を分析

斉藤和義は“理想のポジション”をどう築いたか? 消費されないミュージシャン像を探る

 さらに「ワンダーランド」は栃木発地域ドラマ「ライド ライド ライド」の主題歌。疾走感のあるロックンロールと、〈Oh—!〉という爽やかなコーラス、〈風の中を今すぐ走りだそうよ〉というような歌詞は、ドラマ題材である自転車ロードレースチームにお誂え向きのものだろう。でも、そこに〈風に吹かれたら唄って〉とボブ・ディランを忍ばせたりするのが斉藤和義カラー。ロック好きなら必ずくすぐられるツボがある。その要素は、過去のどんなヒット曲にも感じられるのだ。

 タイアップの仕事はきちんとこなす。プロとして職人として、一定のクオリティを保ち続ける。だけど自分のルーツも必ず出す。そのバランス感覚が実に優れているのだ。あるいは、八方美人に仕事をせず、どこか「男のこだわり」を感じさせる佇まいだからこそ、彼の歌を起用することが「企業のこだわり」と合致するのだろうか。今はバンバンCMを打てば商品が売れる時代ではない。だからこそ、斉藤のタイアップは昨今増えているのかもしれない。

 今から21年前、斉藤和義は「僕の見たビートルズはTVの中」でデビューしている。今となればこれは非常に示唆的なタイトルに思えてくる。ビートルズというロックの基本を、TVというマスメディアで見る経験。シンガー・ソングライターでありロックンローラーであり、自由人、ギターマニア、優男、エロ好きな「せっちゃん」などなど、さまざまなイメージで語られる斉藤和義だが、彼がやってきたことを改めて振り返れば「マスメディアでのロック体験」という一言に集約されるのではないか。ポンキッキーズで「歩いて帰ろう」を知った人、アリナミンのCMで「やぁ 無情」を知った人、家政婦のミタで「やさしくなりたい」を知った人は、のべ一億人では済まないはずだ。

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