円堂都司昭が『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』を徹底レビュー
吉井和哉は昭和の名曲をどう解釈したか? 世代・男女・ジャンルの境界を越えた選曲を分析
また、選曲には、境界線を越えるという意味で、日本の歌謡曲の要素と洋楽ロックの融合を長くテーマにしてきた吉井の感覚が現われている。「さらばシベリア鉄道」を作曲し歌った大瀧詠一と作詞した松本隆の2人は、はっぴいえんどのメンバーだった。日本語ロック論争が起きたこのバンドは、日本的なものと洋楽の融合に試行錯誤した先達だった。「人形の家」の弘田三枝子は、同曲がヒットする以前に「ヴァケイション」など洋楽ポップスを多くカヴァーしていた。「噂の女」を歌った内山田洋とクール・ファイブの前川清にしても、演歌歌手になったが、もともとはエルヴィス・プレスリーやジャズなど洋楽好きだったのだ。「ウォウウォウ」とうなる彼の独特の歌唱法には、民謡や浪曲のような日本的情緒とは異なる、どこか突き放したクールさがあった。それを吉井がどう歌ったかも、本作の大きな見せ場だ。
そのほか、沢田研二、荒井由実、都倉俊一といったアーティストや作家陣も、洋楽を強く意識していた。『ヨシー・ファンクJr.』は、日本のロック・ヴォーカリストが邦楽と向きあった作品だけれど、そこには洋楽との関係性も織り込まれている。
その意味で、私が最も面白く感じたのは、「襟裳岬」だ。ギター演奏にのる言葉のリズム感のためだろう。吉井のヴォーカルは、オリジナルを歌った森進一よりも作曲した吉田拓郎に近く聴こえる。かつて、THE YELLOW MONKEY「BURN」には、ザ・ローリング・ストーンズ「悪魔を憐れむ歌」風の「フーフー」というコーラスが入っていたが、「襟裳岬」における少年少女の合唱とキーボードの演奏には、ストーンズ「無情の世界」を連想させる雰囲気がある。いろいろな要素が混じりあって、吉井のカヴァーはできあがっている。
ここまでみてきた通り、『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』は、世代、男女、ジャンル、それぞれの境界線を越える歌への愛が表現されている。カヴァー集にはシリーズ化の構想もあるらしいから、違う時代の邦楽や、洋楽のカヴァー集がいずれ発表されるかもしれない。
吉井和哉は、来年1月28日にTRIAD移籍第1弾シングルをリリースすると発表した。かつてTHE YELLOW MONKEYも所属したTRIADレーベルが、吉井の18年ぶりの移籍=復帰を契機として7年ぶりに復活したのだ。今回のカヴァー集が気合いの入ったものだっただけに、オリジナルの楽曲も充実したものになるのではないか。
■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。
■リリース情報
『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』
発売:2014年11月19日(水)
価格:CD ¥3,000+税
アナログ ¥3,800+税 (初回生産限定)
<収録楽曲>
01. SPINNING TOE HOLD ~OPENING~ (クリエイション/1977年)
02. 真赤な太陽 (美空ひばり/1967年)
03. ウォンテッド(指名手配) (ピンク・レディー/1977年)
04. おまえがパラダイス (沢田研二/1980年)
05. 噂の女 (内山田洋とクール・ファイブ/1969年)
06. 夢の途中 (来生たかお/1981年)
07. あの日にかえりたい (荒井由実/1975年)
08. 人形の家 (弘田三枝子/1969年)
09. 百合コレクション (あがた森魚/1984年)
10. さらばシベリア鉄道 (大滝詠一/1980年)
11. 襟裳岬 (森進一/1973年)
12. SPINNING TOE HOLD ~ENDING~ (クリエイション/1977年)