AKB48 秋元康Pのプロデュース術はどう変わった? スタッフのアクター化と拡大する組織を分析

 「運営」の絶対的な象徴であり、対外的にも大きな看板である秋元康の手から48グループがいつか離れた時、今回の38thシングル選抜にうかがえたような運営スタッフの主張の強さは、むしろ頼もしさになるはずだ。秋元が示唆した、選抜会議での各スタッフの存在感の大きさや、多くのメンバーを推薦しようという姿勢は、自らが担当するグループやそのメンバーへの思い入れが強くなっていることの証でもある。48グループ総体の顔である秋元が離れて以降もなお、各グループが均衡を保って持続するならば、それは秋元のような桁違いのキャリアを持つトップの威光によってではなく、各グループ運営の緊張関係によって成立すると考えた方が現実的だろう。その均衡には、運営たちの思い入れと主張の強さが不可欠になる。

 渡辺麻友とのWセンターにHKT48の宮脇咲良が選出された今回の選抜会議で、AKB48以外の各姉妹グループ運営の主張がそれぞれどれほどであったのかは、秋元の発言から詳しくは読み取れない。しかし、そうした主張の強さが各姉妹グループのスタッフにも同様であったならば、各地のグループがよりフラットに拮抗状態を保ちながら、歴史を紡ぐ未来があるに違いない。そして、48グループが普遍的なジャンルとして存在していくためには、それは必要なプロセスでもあるはずだ。

 近年、AKB48グループに対して強いモチベーションを持続しているように見える秋元が、近い未来にグループから手を離すという予測は現実的ではない。しかし実際、48グループのこれまでにない規模の拡大によって、相対的に秋元の目の届く範囲が小さくなっていることは想像に難くない。その意味で、「755」での発言が示唆するように、他のスタッフに判断を委ねる割合が大きくなっていることは間違いないのだろう。その環境が各グループ運営の自覚と思い入れの強さをさらに醸成していくのならば、それは「秋元康が運営ではない」未来に向けたポジティブな準備であるはずだ。もちろん、これはまだちょっと先回りしすぎた未来像だろう。しかし、選抜人数を削れないほどに各運営が拮抗してメンバーを推薦する姿には、現在のところ希望を見出したいと思う。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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