SMAP『Mr.S』はなぜ1996年を想起させるのかーー森脱退がグループに残した刻印

 新作の『Mr.S』を聴いて筆者が最初に思い出したのは、実はこの『008』と『009』だった。冒頭のジャズ/フュージョン的な展開と全体におけるプログラミングとスタジオ演奏のバランスには、とくに『008』を連想させた。加えて言うと、前回記事にも書いたように、歌謡ハウス「ビートフルデイ」が「SHAKE」(1996)を連想させた。『Mr.S』に対して、「90年代的」と感じたゆえんはここにある。いや、「90年代的」どころではない。『008』『009』と「SHAKE」を連想させる『Mr.S』は、明確に1996年のSMAPを思い起こさせるのだ。そしてこの、1996年的なSMAPの新作が筆者を感慨深くさせる。なぜなら1996年とは、森且行がSMAPから脱退した年に他ならないからである。森が在籍した最後のアルバムこそ『008』だった。『Mr.S』というアルバムは筆者に、森脱退の記憶を強烈に喚起させる。大谷能生はSMAPについて、森の脱退を踏まえながら次のように述べる。

「SMAPは、グループとしてのアイデンティティに、それが固まった瞬間に走ったひとつの亀裂、ある決定的な引き裂かれの体験を抱えている。彼らの長年の活動は、この欠損を正面から引き受け、その経験を忘れない/なかったことにしないという強い意志によって支えられているのだと思う。」(大谷能生「『SMAP×SMAP』の最終回は」『新・日本人論。』ヴィレッジブックス)

 森脱退の記憶を喚起するアルバムが発売される直前、『27時間テレビ』では、森がSMAPへの思いを綴った手紙を披露した。いまやすっかり国民的グループだが、メンバーはもちろんファンだって、森のことは忘れがたい。27時間テレビもまた、1996年のSMAPを思い起こさせるものだった。先行シングルとして『Joy!!』が発表されたとき、先の大谷と「なんだか90年代のSMAPっぽいですね」と感想を言い合ったのを思い出す。だから、大声で歌おうではないか。「あの頃の僕らを思い出せ出せ/勿体ぶんな/今すぐJoy!! Joy!!」と。「あの頃」とはいつか、だって? もちろん、森くんがいた頃に決まっているさ!

■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。

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