書籍『隣の嵐くん』出版記念インタビュー(後編)

嵐のスタイルは若手ジャニーズにどう受け継がれたか 明治大学名物講師が分析

嵐ファンカルチャーの独自性について

関氏の専門は、フランス現代思想、セクシュアリティの視点から見た文化論。

――本書では、嵐の熱狂的なファン=アラシックについても取り上げています。時にはツイッターなどでの炎上騒ぎもありますが、関さんはファンのそうしたふるまいを「既存のアイドル理解では了解不可能」として、そのメカニズムを説明しています。

関:ネットでアラシックの言動が炎上する場合、その「言い方」がよくない場合がほとんどなので弁護するつもりはありませんが、実情は世間の皆さんが思っているようなものとは少し違うと思います。たとえば有名人が「嵐のコンサートに来た」などと発言し、それに対してアラシックが「当たらなかった人のことも考えてください」と批判したりすることがありますが、嵐のコンサートにおいては後者の態度が「ただ偏狭なだけ」とは言いきれないでしょう。というのも、たとえばアラフェスなどのコンサートは極めて民主主義的な論理を貫いていて、公平性というものに強いこだわりがあり、ファン同士でおたがいが気持ちよく楽しむためのルールがあります。それが原理主義的になってしまうこともありますが、アラシックにとっては必要なことでもあります。そしてルールを守らない人に対し、周りのファンがそれを指摘するのは、一種の自浄作用となって働きます。アラフェスは特に、嵐とファンが一体となって作り上げてきた一大イベントでもあるので、招待された有名人の自慢を批判するのは、アラシックのルールとしては理解できる範疇です。外から見ると杓子定規的かもしれませんが、アラシックでもない第三者がそれを「偏狭だ」「過剰反応だ」と批判するのは、いささか筋違いではないかと思います。

――アラシックの自浄作用は、アイドルカルチャー全般にとっても規範となる部分があるのかもしれませんね。

関:アラシックの自浄作用の背景には、嵐メンバー同士の仲の良さがあります。AKB48は競争社会ですが、嵐はみんながお互いに仲良くなるにはどうしたらいいか、という方向性です。どちらも民主主義的ではありますが、AKB48はポピュリズムの側面が強く、嵐はみんなで共通のコミュニティを考えていく成熟した民主主義に当たると思います。エンターテイメントという視点で見ればどちらにも面白さがあると思いますが、嵐のそうした姿勢から現在のアイドルカルチャーが学ぶ点は少なくないと思います。

――最後に、関さんが一番好きな曲を教えてください。

関:難しい質問ですね(笑)。PVも込みでいえば、個人的には「truth」が一番良いと思います。ただ、楽曲だけで考えると「Lotus」が一番好きです。「Believe」などもそうですが、僕はダンサブルでストレートな、疾走感のある曲が好きですね。そういう意味で最新作の「誰も知らない」も良いです。初期でいうと「PIKA☆NCHI」が、嵐にしてはツッパっている感じで面白いと思います。嵐は常に進化していて、その時期ごとに良さがあるので、これからも目が離せませんね。
(取材・文=松田広宣)

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