『週刊金曜日〜アイドルを守れ〜』対談レポート(前編)

アイドル論者が語る“握手会と現場”の最前線「人の心は金で買えないけど、ヲタの心は“握り”で買える」

 雑誌『週刊金曜日』の6月6日号にて“「アイドル」を守れ”と銘打った特集を行ったことを受け、同誌で執筆したアイドル論者たちによるトークイベントが6月12日、荻窪ベルベットサンにて開催された。イベント前編では、アイドル評論家の中森明夫氏と、特集の企画協力をしたライターの倉本さおり氏が司会を担当。社会学者/情報環境論者でありながら先日、新生アイドルグループ「Platonics Idol Platform」のプロデューサーとしても活動し始めた濱野智史氏、リアルサウンドでも執筆中の音楽評論家・宗像明将氏に加え、地下アイドル兼ライターとして活躍する姫乃たま氏が登壇。ライブ現場や握手会の最前線について、ざっくばらんに語り合った。

握手会と現場の最前線

濱野:去年の夏ぐらいに鎌倉でやったイベントでBiSと握手したんです。BiSって、あまりルックスを売りにするようなタイプではなくて、メンバー自身も「たまにはブスと握手しにきてください」っていうでしょ。でも、実際に握手するとかわいい。AKB48だってそうですよ。つまり接触には希望があるんです。

宗像:以前、BiSののぞしゃん(ヒラノノゾミ)の握手に、すごいダメ出ししたことがあって。「握手はもっと選挙の立候補者みたいに両手で握らないとダメだ。人の心は金で買えないけど、ヲタの心は“握り”で買える。なぜならヲタは人ではないから」って教えてあげたことがあります。

濱野:握手はなぜ必要かって言うと、単純に魅力があるんですよ。これは否めない。襲撃事件があろうがなかろうが、ヲタにとってもアイドルにとっても必要なことで、続けざるを得ないわけです。

倉本:姫乃さん自身は握手会を行う側の人間として、接触についてはどう感じていますか。

姫乃:私は売れていない地下アイドルなので、サービスは握手どころではないんです。チェキを撮るときもすごく接触するし、ハグ会とかもある。でも、そうなると逆に距離が近すぎて、ストーカーとかはあまり出てこないんじゃないかと思います。たまに風邪引いた時に自宅にお見舞い品を持ってきてくれるファンがいたりとか、過剰なアプローチはありますけど。

中森:BiSの『週刊金曜日』インタビューは、握手会の事件が起こる前にやっているんだけど、ファーストサマーウイカが暴言を吐くファンに対し、握手会で「相手を刺そうと思ったら刺せるわけです」って言っている。ファンがアイドルを刺すだけじゃなく、逆だってありうると。そういう距離感ではあるよね。

宗像:実際、BiS階段のライブでは普通にスタンガンでヲタを打ったりする。僕は脱退した子を推していて、プー・ルイから恨みをいっぱい買っているから、狙い定めてガンガン打たれる。けっこう「プリプリッ!」ってきますよ。あとでライブの動画を観たら、自分が悶絶していました。

濱野:まじっすか(笑)。エクスタシーですねぇ。

中森:BiSのライブはスゴいよね。主演映画第二弾の『アイドル・イズ・デッド ノンちゃんのプロパガンダ大戦争』を観て驚いた。ファンがエキストラで出ていて、その人たちにライブシーンの芝居をさせるんだけど、それができなくてみんな固まっちゃう。で、最後に監督が「もう芝居じゃなくていいから盛り上がってくれ」って言ったんでしょう。芝居から解放された勢いがスゴくて。世界中の映画のライブシーンの中でも、指折りだと思う。パンクのライブフィルムとかたくさんあるけど、どの国のどの時代でも通用する映像だよ。

姫乃:実はわたし、その映画に出演しているんですよね。撮影現場が深谷で、しかも平日だったのに、30人くらいファンが集まっていました。

宗像:けっこうBiSのファンって無職が多いんですよ。BiSの現場って本当に毎日のようにあるから、本気で追いかけようとしたら仕事やめざるを得ないんです。で、BiSは今度解散するから、だんだん精神的にもおかしくなってくる。「仕事も家庭もどうでもいいよ!」って。BiSは今ラストツアーしているんですけど、全通する人いっぱいいるし。

中森:グレイトフル・デッドのデッドヘッズみたいな感じだね。

宗像:実際、デッドみたいに撮影も実質的にフリーになっていて、YouTubeに動画がいっぱい上がっていますので、ぜひ観てみてください。

現場派のライフスタイルとは

中森:濱野さんが『新潮45』で書いていた「地下アイドル潜入記」を読んでいたんだけど、現場派のライフスタイルは衝撃的。生ビール一杯30円の店に通ったりして「働いたら負けだ」みたいなこと言ってるの。

濱野:極端な例を挙げているので、もちろんそんな人ばかりじゃないですけど、あのルポに出てくる人たちは無職のニートで、でもだからアイドル現場に行きまくれる人たちなんですよ。だからお金はあまりなくて、最近は僕もそれに慣れちゃって、安い居酒屋しか行かないです。大抵のヲタは感想戦をしたいから酒は飲みたいんですけど、余計なお金は使いたくない。接触とか、アイドルに使いたいわけですよ。だから必ず居酒屋でも一品しか頼まないし、お通しもカット。お通しカットできないヲタは“凡ヲタ”扱いされます(笑)。

宗像:お通しカットできないとツイッターで叩かれますよね。

濱野:で、最初僕がアイドルヲタクたちと飲んでてビックリしたのは、「和民」が“アツい”と。なんで?って聞いたら「だって和民はブラック企業っすよ」って真顔で答えるわけ。ブラック企業=安い、だから行くという価値観。お通しは当然カットで、しかも焼酎しか頼まない。そうすると8人で2500円くらいしかかからないんですよ。ひとり300円!

中森:和民がブラックだろうがなんだろうが、彼らにとっては機能的にそれが正しいということだろうね。極めて唯物的な価値観。

濱野:唯物的だし、どんなに不景気になっても大丈夫、みたいな感じなんですよ。もう俺、家でも焼酎です。キンミヤか鏡月しか飲まない。賢いんだかバカなんだか、さっぱりわからないですけど(笑)。

姫乃:なるほど、だからヲタはキンミヤが好きなんですね(笑)。

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