デビュー18周年で改めて注目 日暮愛葉のブレない「ロック道」

 では、その“色”とは何か。しばしば、彼女の音楽は「日本人離れした」という形容詞がつく。事実、PJハーヴェイやピクシーズ、ソニック・ユースらといったオルタナシーンからの影響は自身もよく語っていること。海外留学経験を活かした生っぽい英語詞も、SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER活動時、J-POPではほとんど耳にしないものだったし、加えてビジュアルイメージも女性だからと飾り立てずシンプルに徹した。そんな日本の音楽シーンでは珍しいスタイルもさることながら、彼女たちのスタンスそのものを取り込んだのが日暮愛葉という人だった。

 ブロンディ、PJハーヴェイ、キム・ゴードン、holeのコートニー・ラヴ……。日暮が敬愛するアーティストたちはみな、自らの女性的なパーソナリティと向き合いつつも、それまでのいわゆる“良妻賢母”的なしがらみから逸脱した新たな女性像を打ち出し、それを音楽へと昇華させてきた。繊細で危うく、美しく、力強い。そんな音楽表現におけるハイブリッドな女性性を、日暮は継承しようとしたのではないか。今では日本のロックシーンには女性が増えたし、90年代当時だってもちろん女性のアーティストは活躍していた。しかし、彼女のようにひたすら己のロックを突き詰めるようなストイックな女性ロッカー(あえてミュージシャンではなく)というとほかに適当な人が思い浮かばない。18年間の集大成を聴いて思うのは、まだまだ日暮は“女のロック道”の途上だし、これで一区切りなんかでは決してないということ。自分の信じる先を見据え、ひたすら走り続ける。ブレないその姿勢が“色”となって作品にも表れているのではないだろうか。

 新生SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERは、日暮が全幅の信頼を置く元NUMBER GIRLの中尾憲太郎をバンマス/ベースに迎え総勢6人編成となる。これまで日暮は、一度終わったバンドの曲は演奏しないという方針から、解散後にSEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERの曲を演奏したことは一度もない。それがようやく5月5日のライブで日の目を見ることになるというのは、それだけでも楽しみなこと。ましてや新編成になってよりバンド感を増したサウンドにもなっていることだろう。秋には新作のリリースも予定されているという。個人的には新生SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERのライブが一度きりなんてもったいないし、どうせなら夏フェスなんかで彼女たちを知らない若い世代を熱狂させる姿を見てみたいとも思う。“18(アイハ)Year”にふさわしい動きの多い1年になることを期待したい。
(文=板橋不死子)

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