『すべてのJ-POPはパクリである』インタビュー(前編)
「ポップスには種も仕掛けもある」マキタスポーツが語る“ヒット曲の法則”
ミュージシャン側の人たちに、警戒してもらいたい
――同じコード進行、同じメロディの構造と「パクリ」と概念の違いは?
マキタ:「パクリ」なのかどうかを普通の人が判断するのって、メロディと歌詞でしかないと思うんですよ。僕もカノン進行っていう言葉を知る前までは、「この、ベース音が1音ずつ下がっていくやつってみんな好きだな」って認識しているだけだったので、「みんな相当この音が好きなんだな」って思ってて。「売れている曲の多くには、なぜこの要素が使われているんだろう? これってパクリじゃないの?」って思ってたんですよ。
そう思っていたら、当時、藤井フミヤさんがソロ活動を始めるというニュースがあったんです。ソロデビュー第一弾のシングル『TRUE LOVE』ですね。僕はこれを初めて聴いたとき、「やっぱり第一弾シングルはハズせなかったんだ」って思いました。甘い声とルックスを持っている人気者の彼が、「ベース音が1音ずつ下がっていくやつ」をやったらそりゃ売れるわと思いましたよ。
――その仕掛けを使って売れた瞬間を目の当たりにした。
マキタ:音楽には種も仕掛けもあるんだと気づいた瞬間でしたね。「ハーモナイズ」って言ったりもするんですけど、例えば普通の「C→F→G」っていう進行の間に、経過音的なベースラインを一個成分として出すだけで、聴こえ方が違って聞こえたりするんです。こういうところって、普通の人は気にしないんですが…… でも、コード進行を気にしながら聴くと、代理コードに置き換えるリハーモナイズっていう作業をそこにしてあるものだとしても、カノン進行はカノン進行なんですよ。そういうこととかはパクリだってみんな言わないんですよね。
コード進行以外の部分で言うと、リズムとかもそう。これに関してはパクリだらけです。リズムパターンというものはある程度決まってますから。アフリカの民族音楽とか、菊地成孔さんがやってるポリリズムみたいな例外もありますが、これらは複雑なビートなのでポピュラーミュージックの中にはなかなか輸入されないです。基本的にはビートというのは、チャチャだろうがマンボだろうが、8ビートだろうが、パクリだらけですよね?でもそれに関しては何も問われない。問われるのはメロディ。特にメロディがちょっとでも似れば、「あれはパクリだ」というんですよね。
――そういう意味合いで「すべてのJ-POPはパクリである」というタイトルを付けた。
マキタ:ここまでお話してきたことから、世間一般では、部分的にしか音楽をキャッチしていないということがわかっていただけると思います。ポピュラーミュージックというのは、簡単にパクリって言ってくれるなよってくらい、色んな仕掛けが施してあって、ある種の官能性をちゃんと約束出来るだけのものを作り上げられているのではないでしょうか。僕はそこの部分を少しでも知ってもらえたら、音楽的にも楽しめるし、豊かじゃないかなって思ってるので、こういう本を出したんです。
――音楽をもう少し、より深く入って、もう一つ楽しめるための聴き方として提示していると?
マキタ:こういう、手品の種明かしのようなことをやることによって、リスナーには、ちょっと気付きを持ってもらえたら楽しいかもしれないし。あと、ミュージシャン側の人たちに、警戒してもらいたいというのもありますね。手品の種明かしが一つあったら、手品は出来るんです。マジックを掛けられるんですよ。 まぁ、このやり方を今後もずっとやっていくつもりはないですけどね。
――問題提議だという側面もあるわけですね。
マキタ:そう。いまはこれだけネットが普及しているんだし、曲を出せば、それをみんなが解体していくじゃないですか。この本を通じて、少しでも危機感みたいなものが伝わればいいなと思いますね。
(後半【ホルモンとももクロの共通点とは? マキタスポーツが「人気曲の構造」を分析】へ続く)
(取材・文=中村拓海)
■リリース情報
『すべてのJ-POPはパクリである (~現代ポップス論考)』(扶桑社)
発売:1月29日
価格:1200円+税
<収録内容>
第1章 ヒット曲の法則
・ヒット曲を生み出す時代背景
・カノン進行は一発屋を生む?
……など
第2章 なぜCDが売れなくなったのか?
・ファッション化する音楽
・AKB48の曲がヒットする2つの理由
・ももクロのジャンクさは確信犯
・ジャニーズという「ジャンルのすごさ」
・ビジュアル系をビジュアル系足らしめる3要素
……など
第3章 モノマネから発するオリジナリティー
・作詞作曲モノマネはオリジナルなものを生み出す
・オリジネイタータイプとフォロワータイプ
……など
第4章 日本のポップスはすべてノベルティー・ソングだ
・アーティストの非常に「柔らかい部分」
・「ノベルティー・ソング」とは何か
・「人格/規格」という見立てでアーティストの秘密がわかる
・パクリ論争などバカバカしい
……など