ヴァンパイア・ウィークエンドのグラミー受賞から見えるもの

グラミー賞を取れるロックバンドに必要な要素とは? 近年の傾向を読み解く

 現地時間26日に行われた第56回グラミー賞授賞式では、ダフト・パンクが〈Record Of The Year〉と〈Album Of The Year〉の主要4部門中2部門をダブル受賞したほか、期待の新人、マックルモア&ライアン・ルイスは〈Best New Artist〉をはじめとする4部門を受賞。パフォーマンスではビヨンセとジェイ・Z夫婦のコラボ、ポール・マッカートニー&リンゴ・スターの夢の共演や、ダフト・パンク&ファレル・ウィリアムス&ナイル・ロジャース&スティーヴィー・ワンダーによる豪華コラボなど、グラミーの名にふさわしい話題性とアーティスト達の夢の共演が目白押しだった。

 その中でもロックバンドの受賞として注目したいのは、ヴァンパイア・ウィークエンドの〈Best Alternative Music Album〉受賞だ。彼らは2011年のセカンドアルバム『コントラ』で、同部門にノミネートされていたのだが、惜しくも落選してしまっていた過去がある。(その年の受賞者はザ・ブラック・キーズの『Brothers』)

 グラミー賞は審査員1万5000人の投票によって決まるが、選考基準として掲げているのは「作品のクオリティ」という1点のみ。つまりセールスは考慮しないように、という暗黙の了解があるのだ。ただ、傾向をみていると、近年の受賞作には統一性が見られることがわかる。それは「サウンドに郷愁性があり、カントリーやフォークの要素が強いアルバムが受賞しやすい」という傾向である。その背景には、人員構成においてカントリー寄りの審査員が最大派閥を築いており、ロックやR&Bなどを好むアーバン系の審査員の数が少ないことがあるといわれている。実際に2013年のマムフォード&サンズや2012年のボン・イヴェール、2011年のアーケード・ファイアに2010年のキングス・オブ・レオンといった面々が主要部門で受賞をしていることからも、こうした見方には一定の妥当性がありそうだ。

 今回のヴァンパイア・ウィークエンドの受賞は主要4部門ではないが、この流れに当てはまったと推測する。これまでリリースした2枚のアルバムでは、アフロ・ポップやレゲエなど民族音楽とロックを繋いだバンドとして各方面で評価をされてきたが、今作『Modern Vampires Of The City』は彼らの持ち味を残しつつ、かつてメンバーのエズラとロスタムが参加していたダーティー・プロジェクターズに近い、カントリーやフォークを連想とさせるエレガンスな郷愁を感じさせる。

 また、宗教的な側面を持つ歌詞も多く、旧約聖書から引用したり、アメリカの歴史を語ったりもしている。それをダイレクトに受け取る現地の音楽メディアからの評価も、その歌詞と音楽性に言及するものが多く、2013年のベストアルバムとして米Rolling Stone誌とPitchforkがそれぞれ1位に挙げるなど、ほかのメディアも軒並みTOP10入りさせている。

 今回、主要4部門からロックバンドが消えたのは、来年以降の選出にどう影響をしてくるのかはわからない。だが、2015年は主要部門にロックバンドが名を連ねているということを期待したい。
 
 筆者の予想であり希望的観測でもあるが、今年新作のリリースを控えており、2012年の『Codes and Keys』をはじめ計4作でエントリーされながら、受賞経験のないDeath Cab For Cutie。また、次回のタイミングは難しいかもしれないが、昨年10月にアルバムをリリースしたSUBPOPの新星で、Fleet FoxesやFun.といった審査員の趣向に合いそうなバンドにも通じるTHE HEAD & THE HEARTあたりがノミネートされるのではないだろうか。
(文=中村拓海)

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