宇野維正が横浜アリーナ公演を徹底考察

きゃりーが見せた未来型エンターテインメントーー横浜アリーナ公演の画期性とは?

ライブ中盤ではきゃりーが“銃撃”されるシーンも。

 今回の『きゃりーぱみゅぱみゅのマジカルワンダーキャッスル』が画期的だったのは、もはやそんな「ライブ空間のテーマパーク化」という概念が逆転して、「テーマパーク空間のライブ化」という境地に達していたこと。昨年の全国ツアー『なんだこれくしょんツアー ~きゃりーぱみゅぱみゅの宇宙シアター~』のオーディエンス層の時点である程度は予想していたものの、週末の夕方早めの時間の開演となった今回、会場内で目立っていたのはコスプレをしたオーディエンスと子供たちの多さ(言うまでもなく、一番目立っていたのはコスプレ×子供の最強コンボだ)。「演奏中に騒いで迷惑」という以前からよくある声に加えて、近年は、真夏の炎天下での長時間の野外イベントやスタンディングの会場の前方に子供を連れてくる非常識な親に対しての「ほとんど幼児虐待」という声も多く、「ライブにおける子供問題」というのは重要なトピックの一つでもあるのだが、きゃりーの単独ライブはそれらの問題とは無縁。室内の巨大な空間の中で、正義と悪が戦うステージ上のストーリー展開に脇目も振らず夢中になって、中田ヤスタカの4つ打ちに合わせてサイリウムを振りながら身体を揺らす子供たちの姿は、普段の生活では滅多に感じることのない、「この国の明るい未来」を感じさせてくれるものだった。

約1万2000人の観客には、家族連れの姿も目立った。

 《さみしい顔をした小さなおとこのこ/変身ベルトを身に着けて笑顔に変わるかな/おんなのこにもある 付けるタイプの魔法だよ/自信を身に着けて 見える世界も変わるかな》。その後のきゃりーの快進撃の起爆点となった、ちょうど2年前にリリースされた2ndシングル「つけまつける」のよく知られた一節。この歌詞の何がすごいって、過去にも数多くの前例があった小さな女の子の憧れとしての女性シンガー像を作り上げるだけでなく、「変身ベルト」と「つけまつげ」を対比させることで、小さな男の子への視点もちゃんと入っているところ。大人から子供まで、そして小さな女の子だけでなく小さな男の子まで、まるで本当のテーマパークで遊んでいるかのようにみんなが一緒になってきゃりーを応援していたこの日の会場の光景を、その時点で中田ヤスタカがイメージをしていたとしたら、「おそるべし」と言うしかない。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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