『デビル メイ クライ5』はサウンドがより“スタイリッシュさ”を演出? サウンドチームに聞いてみた

『DMC5』サウンドチームインタビュー

 『デビル メイ クライ』(以下DMC)シリーズは、“スタイリッシュアクション”だ。それは間違いない。だが、なぜ『DMC』は“スタイリッシュ”で“爽快”なのだろうか? シリーズの看板である“スタイリッシュアクション”の裏には、制作者たちの熱い思いが隠されているのではないか。

 そこで今回、シリーズ最新作『デビル メイ クライ5』の発売に先立って、本作のサウンド関係の開発を行っているスタッフの方々に話を聞いた。『DMC』のサウンドは、どのような形で“スタイリッシュアクション”に貢献しているのか、サウンド面から『DMC5』の魅力に迫りたいと思う。

 インタビューに参加してもらったのは、以下の4名だ。

右から、Matthew Walkerさん:プロデューサー。現在は主に本作全体のとりまとめやプロモーション面に携わる。
鈴木幸太さん:リードコンポーザー。ゲーム音楽の作編曲やコンポーザーの取りまとめ、また外部アーティストへのディレクションなども担当。
渥美 格之進さん:オーディオディレクター。サウンドに関わるすべてを監修・監督する。
小池 義規さん:サウンドマネージャー。サウンド関係のプロモーションや、開発進捗の管理を担当する。

スタイリッシュランクとBGMの連携

――今回のインタビューでは、近年で大きく進化を遂げているというサウンド面にフォーカスしていきたいと思います。さっそくですが、『DMC4』から『DMC5』まで10年近い時間が経っていますよね。その間にできるようになったことや、サウンド面で進化した点とは?

渥美:技術的な面では、この10年間でハードウェアがとてつもない進化を遂げています。メモリーも増えて処理も速くなって。だから今まで実装が難しかった“リニアに音を変化させる”ということにチャレンジできるようになりました。

 たとえば、『DMC5』では体力が減ってきてピンチになるとBGMに“ぐにゃんぐにゃん”としたエフェクトがかかってくるんです。それも、いきなり切り替えるのではなくて、自然に変わる。効果音も動きに合わせて音の速度を変えたりできるようになって、音をより“ホンマっぽく”鳴らせるようになりました。

――確かに、『DMC5』は状況に応じて音楽が柔軟に変化していきますね。たとえば、BGMの曲調が変わるタイミングもゲームプレイと連動していて、試遊させていただいた中でも印象的でした。

Matthew:あの技術は本当にすごいですよね! おっしゃる通り、『DMC5』では戦闘に入っても最初の攻撃までは、ずっとイントロの部分が流れているんです。それで、攻撃したら、やっと本格的に曲に入る。これが戦闘に臨場感を与えていますが、鈴木さん、あのシステムについて説明していただけますか。

鈴木:実を言うと、あれは伊津野(伊津野英昭 DMC5のディレクター)さんのアイデアでもあるんです。任意のタイミングで音楽の展開が推移するアイデアをプレゼンさせていただいたのですが、伊津野さんに「ゲームでもライブ感みたいなものを出したい」と言われまして。ライブって、幕が降りているときは導入の音楽が流れていて、幕が開いてアーティストが出てくると、ドカーン!と盛り上がるじゃないですか。あの感じをゲームでも出したいと。だから今回の『DMC5』では、敵に触れるまではイントロが流れてて、攻撃するか食らうかすると音楽が本格的にはじまる……というシステムを採用しています。

鈴木幸太氏

――また今作では、スタイリッシュランクがAからSに変化した時に、BGMが自然にサビへ移行しますよね。あれもプレイしていて衝撃を受けました。

Matthew:私も確認したいのですが、あれはSにランクアップするとサビに行くけれど、その後、AとかBに評価が下がるとまたBメロとかになるんですか?

鈴木:そうですね。

Matthew:あの推移は自然ですごいなと思いました

鈴木:スタイリッシュランクと音楽の連携には、サウンドチーム全員の想いがあります。僕自身、“DMC5の音楽がどうあるべきか”を考え続けていたのですが、音楽がゲームを上手くなるモチベーションのひとつになればいいなと思ったんですよ。お話したように、『DMC5』のサウンドシステムではSランクに行けないと、戦闘曲のサビが聴けないんです。つまり、アクションが苦手なうちはなかなか音楽で気持ちよくなることができないのですが、だからこそ頑張って練習してほしいな、と。もちろん、サビ以外の部分が聴けなくてもつまらなくないように工夫はしています。

Matthew:例えばどんな工夫がありますか。

鈴木:いわゆるサビ以外のノーマルの部分だけでも、Aメロ・Bメロ・Cメロ・Dメロぐらいまで作っていて、ノーマルの部分だけでも曲として成立するようにしています。さらにゲームが上手くなると、「もっと気持ちのいい音楽が聴けるよ」というふうにしたかった。それによって、たとえば他のプレイヤーがシェアしてるプレイ動画を見た人が、「え! この曲ってこういう鳴り方あったの!?」みたいなことに気づく。それで、「Sになるとサビに行くのか。じゃあ、Sになるにはどうしたらいいんだろう」という流れで、モチベーションを高めて練習してくれないかなと。つまり、“ゲームをより楽しんでもらうことに、音楽でも一役買えないかな”と思い、今回スタイリッシュランクとBGMを連携させてみました。

渥美:歌詞も変わるんですよね。

鈴木:そうですね、同じフレーズのボーカルがずっと流れるのは、歌詞がわかる人からしたら飽きてしまうのではないかな考えたんです。デモ曲を作って試してみたところ、やはり同じ歌詞が繰り返し流れるのはくどかった。だからAメロが流れるときは、Aメロ部分の1番と2番の歌詞がランダムに流れるようになっていて、Bメロも2通りあると。そうすると何通りものパターンができるので、何回聴いても飽きないというわけです。『DMC』の汎用戦闘曲って、シリーズを通して一番よく聴く音楽なので、そこを飽きさせないよう『DMC5』ではすごく気を使いました。

――ちなみに音楽がサビに移行するのがSランクから、というのに何か理由はありますか。

渥美: Aで変えるかSで変えるかって言う部分は、ちょっと悩みましたね。

鈴木:最初はやはりモチベーションという意味で、誰でも簡単に達成できてしまうものではあまり上がらないかなと。そこに多少でも価値をつけたかったのはありました。

渥美:見た目もキリがいいですしね。

――そういったインタラクティブミュージック的な取り組みをされているとのことですが、今回の戦闘曲は海外のアーティストとコラボレーションで制作されていますよね。アーティストとのやり取りで大変だったことはありますか。

鈴木:それに関しては正式にお願いする段階で入念な発注書、あるいは設計図のようなものを作っていました。「ネロ」の戦闘曲については、依頼前に社内でデモを作っていまして。インタラクティブなBGMを構築するには、音楽をパーツごとに作る必要があるのですが、デモもパーツごとにバラバラに作りました。

 そのデモをアーティストにお送りして、「こういう形で納品いただきたいです」とお伝えしました。それでお渡しした設計図を元に納品していただいて、その音源をゲームに入れて、そこからさらに音源をアーティストと何度もやりとりさせていただいて、作り上げた感じです。

小池:実際には大体1年ぐらいかけましたもんね。

鈴木:そうですね、構想から制作までかなり時間をかけました。納品されたファイルは知らない人が見たら驚くだろうな、という内容で、サビに行く前の1小節だけのデータが入っていたりするんですよ。

渥美:トゥントゥルントゥトゥン、終わり。みたいな(笑)。

戦闘曲は“そのキャラが聴いていそうな音楽”に仕上げる

――もちろんこれまでの戦闘曲も素晴らしい曲でしたが、今回の戦闘曲はほんとうに楽曲として完成されていますよね。制作する中で、印象に残っていることなどあるでしょうか。

渥美:プロジェクトが動き出して間もない頃に、岡部(岡部眞輝 DMC5のプロデューサー)さんから「今回の音楽、特に戦闘曲は、フェスとかでもかけられるような曲にして欲しい」というオーダーがあったんです。その話を聞いて僕らが思ったのは、今回の音楽はゲームをずっと遊んで好きになる曲というよりも、一度聴いただけで強烈に好きになってもらえるような曲にしないといけない、ということですね。

――例えば、お話に出たネロの戦闘曲『Devil Trigger』については、どんなコンセプトで制作されたのでしょうか?

渥美:『Devil Trigger』は、開発の最初期に「『DMC5』を決定づける曲を作ろう」ということで作り始めて、ものすごく悩みました。『DMC』シリーズは“スタイリッシュ”がテーマで、過去作はロックテイストの音楽を使っていましたよね。でも、“ロックでスタイリッシュという部分にこだわってしまうと表現の幅が狭くなってしまい難しいかな”という思いもあり、最初作ったのはEDMっぽい曲でした。そうしたら、もう、全然ダメでしたね(笑)。EDMがデビルの世界観に全然マッチしなくて。EDMというジャンルはハッピーな音楽なんだと、そのとき気づきました。伊津野ディレクターからは「DMCはビジュアルでも音楽でも、すべてにおいて“死”を感じさせる要素が入ってないといけない」と言われました。そこからは、いかに“死”を感じさせる音楽を作るかを模索しましたね。

――では出来上がった『Devil Trigger』には、どのあたりに“死”を感じる要素が入っているのでしょうか。

渥美:結局、曲単体でいうと、曲調の部分なんですよ。ノリもいいし、カッコいい音楽だけど、ハッピーではない。

Matthew:そうですよね、確かに。

鈴木:いわゆるど真ん中のEDMとは、ちょっと違う曲になっていますよね。

渥美:そう、もはやEDMではない。

鈴木:EDMっぽい要素を入れつつも、『DMC』の音楽っていうのが中心にあって、という感じです。

渥美:たとえば、遊園地ではハッピーな音楽が流れていて、ピエロなんかもいて楽しいわけですが、ハッピーな音楽が流れているのが閉鎖された廃遊園地だったら怖いでしょう?だから情景にも左右される部分があるな、とかそんなことを考えながら作っていたら、気づいたらできていた、というのが正直な実感です。

――続いてダンテの戦闘曲『Subhuman』はいかがでしょう。こちらは、今までの『DMC』の戦闘曲をさらに進化させて、より本格的にメタルっぽくなった感じですよね。

渥美:この曲に限った話ではないのですが、今回は“ゲームを知らない人も聴ける曲”かどうかがポイントだったんです。だからこそ、過去のBGMを振り返ったうえで今までにないぐらい、ゴリゴリのハードコアやメタルの要素を取りいれよう、というのが始まりでした。

――コンセプトについてお伺いしてもよろしいでしょうか。

渥美:『DMC4』のスペシャルエディションのときからそうだったのですが、キャラクターごとの音楽はそのキャラクターが聴いていそうな音楽にしよう、とサウンドチームで決めていました。ネロの『Devil Trigger』もそんなところからはじまっていて、20代中盤ぐらいの人がイケてると思う音楽を元に練り上げました。それで、ダンテはもう結構いい年ですよね。でもダンテはイケてる中年?なので、最近ののロックやメタルも聴いているだろうなと考えました。だから今のあの曲調になったんです。

――なるほど、あれだけ激しい曲だと効果音やかけ声のような他のサウンドと音が混ざって、音が混雑したりしそうですが、その点で工夫されたところはありますか。

渥美:普通だと効果音が鳴るときは音楽を小さくしたりするのですが、それをやりすぎたらせっかくの戦闘曲が台無しになってしまう。なので今回は、状況にあわせてものすごく細かく音を変化させています。その時、その時で注目して聴いてほしい音を目立たせる感じですね。この音のときは音楽は下げないけど、この音がきたら音楽も下げるとか、そういった細かな調整をかなりやりましたね。

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