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レス・ポールの発明からエド・シーランに至るまで…ルーパーが生み出した、新たな音楽の可能性

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 いまやイギリスを代表する世界的シンガーソングライターとなったエド・シーラン。先日の来日公演でも素晴らしいステージで我々を魅了した。ポップス、ロックからR&Bやヒップホップまでの影響力を感じさせる彩り豊かな音楽性と比類なきソングライティングセンス、赤裸々な歌詞と優しい歌声……。その魅力は多々あれど、エドの真骨頂といえばストリートやライブハウスで鍛え抜いてきたギター1本でのパフォーマンスだろう。独自の“ループ”システムを使用し、リアルタイムでフレーズを重ねながらサウンドを描いてく様は耳で聴くだけでなく目で見ても見事だ。

Ed Sheeran – Shape of You (Live on the Honda Stage at the iHeartRadio Theater NY)

 音を重ねながらライブパフォーマンスする、“Live Looping=ループ演奏”を行うアーティストは、エドだけではない。“Looper” “Loop Pedal”と呼ばれる機材を武器に、弾き語りのシンガーソングライターやヒューマンビートボクサー、はたまたジャズやクラシック音楽の演奏家に至るまで、いま、世界中で一大ムーブメントを巻き起こしていると言える。

 “Sound On Sound=サウンド・オン・サウンド”ーーたった1人で奏でる音を重ねながらアンサンブルのような演奏を作り出していく。知れば知るほど不思議な感覚に見舞われるルーパーの世界に迫ってみよう。

新しい概念のエフェクト“ルーパー”とは?

 そもそも、ルーパー(ループシステムにはさまざまな呼び名があるが、便宜上本稿では“ルーパー”で統一させていただく)とは、小節単位などでフレーズを録音し、それを繰り返し再生することができる機材だ。逆にいえば、その“機能”しかない。すなわち、サウンドを“変化”させ、誰にでも効果を体感できる従来の“エフェクト”とはまったく異なり、使い手と使い方次第で引き起す効果は異なってくるということだ。

 「まったく新しい概念のエフェクト」ーーこれが、ルーパーの草分け的モデル、BOSS 「Loop Station RC-20」リリース時に掲げられたキャッチーコピーである。

 2001年に登場したこのRC-20により、ルーパーの存在は一気に広まった。もっとも、ループ演奏の発想自体はもっと以前からあったが、世界的に知られるエフェクターブランドであるBOSSが「ループだけに特化した単機能モデル」を製品化した影響力は大きく、以降、足で操作するギタリスト向けのフットペダル型や、手で操作するデスクトップ型など、さまざまなモデルが国内外の各メーカーから発売されるに至っている。

Naoryu (Japan) ― Second Place of BOSS Loop Station World Championship 2011 BOSS主催『ループステーションワールドチャンピオンシップ』日本大会優勝、世界第2位、福井県出身のシンガソングライター、ナオリュウ

サンプラーと多重録音

 RC-20登場以前の90年代から、サンプラーとMIDIコントローラーを併用し、リズムトラックやバッキングを使ったライブを行うアーティストは少なくはなかった。

 1980年代後半、「既存曲のフレーズをサンプリングして音楽制作する」という新たな手法が、米ニューヨークのヒップホップDJたちのあいだで生まれた。1988年に登場したAKAI「MPC」シリーズに代表される、サンプリングした音をパッドで鳴らすことによって、リアルタイムに音楽を作っていくサンプラー機材は、DJのみならず現在でも多くの音楽制作、ライブ現場で活躍している。

 ルーパーもこうしたサンプラーと混同されがちなのだが、厳密にいうと別の発想から生まれたものだ。サンプラーは、あらかじめサンプリングした音をメモリ化して呼び出す、というシンセサイザーにおけるPCM音源の一つとして扱われる。しかし、ルーパーは生楽器を演奏しながら録音し、それを流しながら演奏する、ということの繰り返しであり、やっていること自体はリアルタイムの多重録音なのである。

 多重録音によるループ演奏、そう聞いて、King Crimsonのギタリスト、ロバート・フリップを思い浮かべる人もいるだろう。70年代、King Crimsonを活動休止させ、ブライアン・イーノなどの現代音楽家とのコラボレーションを行っていたロバートは、エレクトリックギターサウンドの究極を追い求めた「Frippertronics(フリッパートロニクス)」を生み出した。そのアンビエントでスピリチュアルなサウンドスケープは、当時のリスナーの想像をはるかに超えたものであり、「音楽理論である」とか「そもそも概念である」といった飛躍しすぎたさまざまな解釈があったのだが、要するにアナログテープでプレイバックさせたフレーズに、さらにフレーズを重ねていく手法であった。これは、ミニマルミュージックを代表するアメリカの音楽家、テリー・ライリーが1963年に考案した2台のテープレコーダーによる多重録音システム「Time Lag Accumulator」の発展型ともいえるものだ。そんなテリーは1968年にニューヨークで行われたオールナイトのコンサートでこのシステムを用い、反復するオルガンとサックスを基調とした即興演奏を夜通し行なっている。この前代未聞のループ演奏による模様はライブアルバム『Poppy Nogood And The Phantom Band All Night Flight』としてリリースされている。

 しかし、それよりもっと前にギターのループ演奏を行っていたギタリストがいたことはあまり知られていないことなのかもしれない。ギブソンのエレクトリックギター、レスポール・モデルの生みの親である、レス・ポールだ。

レス・ポールの早すぎたルーパーと、ディレイの発展

 現在、世界中のレコーディングで当たり前のように行われている“多重録音=マルチトラックレコーディング”を広めたのは、レスだ。彼が1947年にリリースした『Lover/Brazil』(シェラック盤 10インチ)は、8本のギターを重ね、さらに一部のトラックの再生速度を変えることによってピッチをコントロールし、ギターらしからぬサウンドメイクを施す、といった多重録音の可能性を知らしめた歴史的作品である。

 ギタリストでありながら発明家でもあったレスは、こののちに8トラックマルチトラックレコーダーを発明しているのだが、それよりもっと前、1944年には「Les Paulverizer(レス・ポールヴァライザー)」という機器を作っている。これはギターに取り付けられた“Black Box”でレコーダーを遠隔操作し、演奏した音を瞬時に録音、そこに音を重ねていくことができるというものだ。まさに元祖ルーパーである。

 しかし、当時はまだ多重録音の認知はおろか、エレクトリックギターにおけるアンプリファイア技術ですら発展途上の時代でもあり、色々な意味で早すぎた発明だった。

 そして80年代に入り、デジタル機器が目まぐるしく進化していく中で生まれたのがデジタルディレイだ。ディレイも元を辿ればレスが考案したものであり、山びこ効果、反響音をシミュレートする空間系エフェクトだが、デジタル化されたことによりその可能性を大きく広げることとなった。1983年にBOSSから登場した世界初のコンパクトタイプのデジタルディレイ「DD-2」に実装された「HOLD」機能は、反響音を永遠に持続させるという、いわばループ機能であった。以降、ギタリストが使うディレイの身近な機能として認知されていく。そして、「ループ」という言葉がはじめて登場したのは、1993年にParadis Guitarsより発売された「Paradis LOOP delay」である。

 この時代、ギタリストにとってのデジタルディレイおよび、ループ機能は、シンセサイザーの台頭に抗うがごとく、「ギターらしからぬ音」を出す“飛び道具的”に使われることが多かった。中でも、再始動したKing Crimsonに参加したエイドリアン・ブリューは、ディレイを筆頭に多種多様な機材を使い、動物の鳴き声や1人オーケストラなど、多彩なサウンドを操るユニークなテクニックを持つギタリストとして音楽シーンのみならず日本のテレビCMにも出演し、一世を風靡した。その探求心は止まることを知らず、現在も多くの音楽活動を行う中で、ルーパーを使った独演音楽家としてとりわけ異彩を放っている。

Adrian Belew – Drive

      

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