『おそ松さん』に『亜人』ーーヒットメーカーの代表対談で見えた、日本アニメの強みと課題
4月5日、東京ビックサイトで開催された「コンテンツ東京2018」内の特別講演として、「気鋭のプロデューサーが語る、ヒットするコンテンツの”企画”と“流通”〜海外展開、配信、VRの活用 など〜」が行われた。
同講演には、アニメーション制作会社ぴえろの最高顧問・布川郁司氏、 ポリゴン・ピクチュアズの代表取締役・塩田周三氏、モデレーターとして、青山学院大学総合文化政策学部教授・内山隆氏が登壇。日本アニメーション界、海外アニメーション界、それぞれの違いについて知ることができる機会となった。その模様をレポートしよう。
30年で大きく変化した日本のアニメ制作現場
まずは日本におけるアニメーションの構造について、『おそ松さん』、『魔法の天使クリィミーマミ』や『NARUTO‐ナルト‐』などの人気作で知られる、ぴえろの布川氏がプレゼンを行った。
アニメをつくる“座組”について、有名作品を引き合いに30年での変化を解説。初めてライセンス事業を伴ったオリジナル作品『クリィミーマミ』は、児童をターゲットにした玩具関係の会社などがスポンサーになっていた。しかし、時代の流れでファミリー層のテレビ視聴時間が変化。児童が中心だったアニメ視聴者も幅広い年齢層へ広がっていった。その結果、従来のスポンサー方式では放送枠を確保できず、生き残ることが難しくなったために”制作委員会方式”が生まれたという。布川氏によると、いまやスポンサー方式で作られている作品は『サザエさん』を筆頭に、10本も満たないのではないかとのこと。
座組だけでなく、ターゲットの変化にあわせて放送時間も変化。ヒット作『おそ松さん』は深夜の放送だったため、ゴールデン枠で放送していた『おそ松くん』とは視聴率としては比べものにならないが、二次使用の広がりは3000アイテムにものぼり、逆に『おそ松くん』を大きく上回る規模になったという。
「企画してから1年は座組が決まらなかった。出資のお願いをしに行っても『今どき?』と言われていた」というが、布川氏たちは「ここまでとは思わなかった」と言いながらもヒットの予感は感じていたとのこと。長年培った、おもしろい作品を見極める勘をさらに培っていきたいと語った。
ロジカルに制作を進める、欧米のアニメ製作業界
海外でも人気の『亜人』、『超ロボット生命体 トランスフォーマー プライム』といったデジタルアニメーション作品を制作しているポリゴン・ピクチュアズ。ハリウッドのテレビアニメ業界のほか、ネットフリックスなどのストリーミング配信でも根強い人気を誇る作品を展開している。今回は「コンテンツの海外展開手法」と題して、代表の塩田氏がプレゼンを行った。
ポリゴン・ピクチュアズは2000年初頭から海外展開をスタートさせた。各国の映画祭などにも積極的に出品し、評価を得ていたことが足掛かりとなり、ディズニーから依頼を受けた『プーさんといっしょ』、前出『トランスフォーマー』、最近ではAmazonプライム・ビデオで配信された『Lost in Oz』など数々の著名な作品を手掛けるように。また5年前には日本のアニメに再参入した。
海外で活躍するからこそ見えてくる日本のアニメの特徴として、塩田氏は子ども向けから政治経済を取り上げるもの、バイオレンス色の強い作品など、幅広いジャンルを扱うテーマ性を上げている。「四季などに代表される日本的感性に加え、過度に政治や宗教に支配されていないという点は世界的に見ても稀有」と話した。
また日本と欧米のアニメ制作現場の違いとしては「透過性」を挙げている。欧米での作り方は非常にロジカルになっており、精緻な見積もりやスケジューリングが求められる。しかし、日本のアニメ業界は、外部から制作過程が見えないため、海外の企業からは「不透明」「やりにくい」と捉えられているとのこと。また契約行為や保険についても触れ、海外では訴えられた時のために「過失怠慢賠償責任保険」というものに入るが、日本で取り扱っている企業は外資系しかないという。エンターテインメントを専門にする弁護士探しも重要と話していた。