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ダースレイダーの『パッセンジャー』評:映画を観る「意味」を問う、SF映画の傑作

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 映画を観るという行為に、もし強力な「意味」を求めるとすればどうでしょうか? 単純に楽しむだけでも良いと思いますが、せっかく観るならそこに何か「意味」が欲しいという人もいると思います。僕は「実生活では到底経験出来ないような出来事」を疑似体験できることに大きな意味があると思っています。ニューヨークのマフィアの跡取り、戦場の兵士、億万長者、大企業の社長、重度の麻薬中毒者、ミュータント、スポーツ選手。そんなのは作りごとだ、と断じるのは簡単ですが、優れた映画作品にはその作品内のリアリティーが存在し、登場人物の体験や思考を「感じる」あるいは「共有」することができます。これはキャラクターに共感するのとはちょっと違います。まったく性格的に相いれないであろう登場人物の葛藤すら体感することができます。

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 本作『パッセンジャー』の設定はSF映画です。近年は優れたSF映画がいくつも作られていますが、「体感」をまさに文字通りのメインテーマに据えた傑作に、アルフォンソ・キュアロン監督『ゼロ・グラビティ』があります。宇宙空間に一人で放り出される、想像すらしたくない状況を観客全員に「体感」させることで大きな驚きと感動を呼んだ作品です。一人取り残されるという意味ではリドリー・スコット監督『オデッセイ』も宇宙における過酷で孤独な状況を描いていました。火星で知恵を絞って生き抜く様には説得力があり、同時に地球側のレスキューチームの思考も楽しめて非常に刺激的です。初期設定が似ている『月に囚われた男』という作品もあります。デビッド・ボウイの息子であるダンカン・ジョーンズ監督の作品で、月で一人で働く作業員の話なのですが、予想外の展開後に強烈な問いかけをされる作品です。ファンタジーの分量は増しますが、リドリー・スコット監督の『エイリアン』シリーズ、『プロメテウス』、 スタンリー・キューブリック監督による古典『2001年宇宙の旅』、或いは一連のフィリップ・K・ディック原作モノ『トータル・リコール』、『ブレードランナー』、『マイノリティ・リポート』、『スキャナー・ダークリー』にも、体感を伴い思考を刺激する「意味」が溢れています。

 本作では、主人公たちは豪華宇宙船アヴァロン号で120年かけた宇宙旅行を経て移住するプロジェクトに参加しています。5000人の乗客と258人のクルーが人口睡眠しているのが、とあるきっかけで主人公ジム(クリス・プラット)だけ90年早く目覚めてしまいます。初登場からそのフォルムに圧倒される豪華宇宙船アヴァロンの造形はいちいち素敵です。そして、その広い空間にたった一人。しかも自分がおかれた現状も、それを打開する方法も見つかりません。

 様々な娯楽施設は、観客が目覚めた後のために設計されていて、そのプログラムが対象を誤った時の空恐ろしさと滑稽さに、システム化が進む今の社会の行く先を感じます。スタンリー・キューブリック監督の傑作ホラー『シャイニング』へのオマージュ感覚たっぷりのバーには、バーテンダーのロボット、アーサー(マイケル・シーン)がいます。ジムとアーサーの会話の中から、人と人の会話の意味を考えさせられます。そして、もう一人の観客、オーロラ(ジェニファー・ローレンス)も目覚めます。広大な宇宙船に男女が二人だけ目覚めている状況が生まれます。細かい伏線が丁寧に回収されていく脚本は見事です。

      

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