『ワンダーランドへようこそ ~Hi-Fi PARTY in LIQUIDROOM~』
ORESAMAのライブが生み出す“豊かな包容力” リキッドルームワンマンを見て
〈ランティス〉からの再メジャーデビュー以降、TVアニメ作品『アリスと蔵六』『魔法陣グルグル』との連続タイアップなどを経てより広い人気を獲得し、4月にリリースされたメジャー1stアルバム『Hi-Fi POPS』では、Daft Punk「Get Lucky」以降続くディスコ/ソウルやブルーノ・マーズ『24K MAGIC』にも通じる80年代ファンク/ニュージャックスウィングの再ブームともリンクしながら、同時に日本の普遍的なポップソングと渋谷カルチャーの最先端とを繋ぐ傑作アルバムを完成させたORESAMA。そのリリースパーティー『ワンダーランドへようこそ ~Hi-Fi PARTY in LIQUIDROOM~』が、4月15日、超満員の恵比寿リキッドルームで開催された。
冒頭、映画『2001年宇宙の旅』のテーマ曲「ツァラトゥストラはかく語りき」の壮大なオーケストラが響き渡ると、宇宙空間が投影されたスクリーンに「ORESAMA」「ワンダーランドへようこそ」と文字が表示され、アルバムのオープニング曲「Hi-Fi TRAIN」のMV同様、宇宙から東京へとテレビが落下して同曲のイントロが鳴りはじめる。そこにMONICO(DJ)と三浦光義(Ba)を加えた4人編成でメンバーが登場。会場が歓声で包まれると、スクリーンではうとまるが手掛けたアニメーションで電車が宇宙へと飛び出し、〈急加速/夢見るエンドレスライナー/(中略)まだ見ぬ世界へつれていくから〉という歌詞に乗って火星、水星、木星、月など様々な惑星への冒険がはじまる――。今年1月の『ワンダーランドへようこそ ~in Shibuya WWW X~』同様、今回のライブも銀河系を舞台にしたサウンドジャーニーのようであり、「Hi-Fi TRAIN」のMVで渋谷にある時計の針が「12:25」(=デビュー曲「オオカミハート」のリリースからの年月、1225日)になっていた通り、序盤からORESAMAの過去・現在・未来が一本の線で繋がるような雰囲気だ。
そうして感じられたのは、今のORESAMAの楽曲が持つサウンドの広がり。イントロでDTM系の音楽に多用されるボーカルエディットを加えつつ、サビ前に4人が向かい合ってジャンプした初期曲「オオカミハート」を挟んで、この日は序盤から“春のうた”として作られたミディアムテンポのディスコブギー「ハロー・イヴ」、観客の手拍子が巻き起こったハウスとポップスの融合「Trip Trip Trip」、スロウなR&Bテイストの「耳もとでつかまえて」など、アナログシンセなどの生音も加えて多彩さを増したアルバム収録曲を次々に披露。中盤以降は「Waiting for...」でコズミックなディスコを披露すると、そのままMONICOによるDJタイムがスタート。大量のレーザーがフロアを覆い、「ドラマチック」「空想フライト」などORESAMAの楽曲をEDM風に再構築したセットで会場がダンスフロアになる。華やかで洒脱なファンク/ディスコポップ、バラード、そしてフロア対応のエレクトロまで、メンバーの気合みなぎる演奏が、それぞれの楽曲の魅力を音源以上に際立たせていた。
この日ハイライトになっていたのが、MONICOのDJからそのまま突入した最新アルバム用の新曲「cute cute」。ここでは、アルバムでひときわ新鮮に響いていたエレクトロスウィング調のトラックに乗って、ぽん、小島英也、三浦光義の3人が揃いのステップを踏み、続く「Listen to my heart」では小島英也と三浦光義がステージ両端の台に乗って観客を煽る。一転ミディアムテンポでぽんの歌心が溢れ出す「誰もが誰かを」を含めて、この日はいつになく多彩な楽曲が入れ替わり立ち替わり演奏のグルーヴを変えていくような印象で、ディスコポップ→バラード→ディスコポップという分かりやすい構成ではなく、今のORESAMAの多彩な引出しを次々に見せていくような感覚がとても新鮮だった。
そしてもうひとつ、改めて印象的だったのは、再メジャーデビュー以降の楽曲が、不安や苦悩、そして“だからこその希望”といった複雑な感情を描いていること。そのきっかけとなった「ねぇ、神様?」はもちろんのこと、振り返れば、ランティス移籍後初のシングル「ワンダードライブ」では、TVアニメ『アリスと蔵六』の世界観に寄り添いつつも、苦難の時期を経てふたたびメジャーデビューした当時の2人の気持ちが、〈まだこれからたくさん躓き/間違える/でも知らなかった景色/この目で見てみたいから〉という歌詞で丁寧に表現されていた。そう、今のORESAMAの楽曲には音楽の楽しさ、華やかさだけでなく、その裏にある不安や苦悩が表現されていて、それが持ち前のキラキラとしたポップミュージックに深みを加えている。だからこそ今のORESAMAの楽曲/ライブには、価値観の異なる様々な人々を夢中にしてしまう豊かな包容力が生まれているのではないだろうか。
実際、終盤にぽんはMCで「私たちはそれぞれ生活があって、私の知らないあなたの苦しみ悲しみがあって。(中略)それを一瞬でも忘れられるような場所を作っていきたいです。(中略)さみしくなったら、遊びたくなったらここへ来て。いつでもこのホームで、あなたを待っています」と語っていたが、その様子を見て思い浮かべたのはやはり、彼らの影響源でもある黎明期のディスコミュージックのダンスフロアだった。かつて人種や性差を超えて様々な人々がミラーボールに集ったディスコと同様に、ORESAMAの楽曲にはポップミュージックのファンにも、アニメファンにも、海外の音楽の熱心なリスナーにも――そのすべてに開かれた魅力的なポップネスがある。実際、この日の会場にも男女、年齢層問わず様々な人々が駆けつけ、彼らが時にメンバーとコミュニケーションを取りながらライブが進む独特の温かい雰囲気は、Daft Punk、Chicやナイル・ロジャース、星野源、近年増加傾向にあるファンク/ソウルを取り入れたアニソンを筆頭にした様々なカルチャーのハブのようでありつつ、同時にORESAMAならではのものだった。それが可能なのは、14年のデビュー以降様々な過程を経て続いたグループのこれまでがあったからこそだ。
終盤はバラードの「SWEET ROOM」を経て、ぽんのアカペラからはじまるアレンジで歌詞の魅力を伝え、グループの転機にもなった「ねぇ、神様?」、お馴染みのキラーチューン「ワンダードライブ」、「愛は止まらないの」と会場一体になって合唱した「乙女シック」、ORESAMAの楽曲の中でも屈指の華やかなグルーヴを持つ「流星ダンスフロア」で本編を終了。アンコールでは『Hi-Fi POPS』仕様のTシャツを着たメンバーが登場し、「アイヲシル」ではMONICOもボーカルに加わってぽんとツインボーカルになる驚きの展開を経て、最後はぽんと小島英也がステージ両端の台に乗って観客を煽った「銀河」で大盛況のままフィナーレへ。終演後もなかなか鳴りやまない拍手が何よりも印象的だった。
アンコールのMCでは9月に自身最大規模となるマイナビBLITZ赤坂でのワンマンライブを開催することも発表。『Hi-Fi POPS』を経てますます広がりゆくORESAMAのエンターテインメントがどんな風により多くの人々を魅了していくのか、今から楽しみでならない。
■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。
■リリース情報
ORESAMA メジャー1stアルバム『Hi-Fi POPS』
発売:2018年4月11日(水)
価格:初回限定盤(Blu-ray付)¥3,600(税抜)
通常盤¥3,000(税抜)
<収録曲>
01. Hi-Fi TRAIN
02. 流星ダンスフロア
03. cute cute
04. 綺麗なものばかり (Album Mix)
05. 誰もが誰かを
06. 耳もとでつかまえて
07.「ねぇ、神様?」
08. Trip Trip Trip
09. ハロー・イヴ
10. SWEET ROOM
11. ワンダードライブ
12. 銀河 (Album Mix)
<Blu-ray収録内容>※初回限定盤のみ
01. オオカミハート
02. ドラマチック
03. 乙女シック
04. 銀河
05. ワンダードライブ
06. Trip Trip Trip
07. 流星ダンスフロア
08. Hi-Fi TRAIN
■関連リンク
ORESAMA Official Website